受け身な部下の「主体性」を育てるには、どうしたらいいのか?

なぜその部下は受け身なのか

以前働いていたレストランで、海外のインターン生を受け入れたことがありました。すごく優秀な生徒だという前評判だったのですが、いざ来てみると遅刻や勤務中の携帯いじり、与えられたことをただやるだけのとっても受け身な状態。さらに日本語がよく分からないのも手伝って、積極的に仕事を取りにきたり、覚えようとしたりしなかったんですよね。

「自分で希望して日本に来たはずなのに、一体どうゆうこと??」と、関わるスタッフの間にもただただ疑問が浮かぶばかり。わたしも半分諦めていたのですが、自分自身も海外生活の経験があるのでちょっと気になって、ある日このインターン生と面談をしてみたところ。

初めての海外生活でホームシックになっていること、日本に来る前にショックを受ける出来事があったこと、本当はこの仕事にとても情熱を持っていること、などなど色んなことを話してくれたんです。もちろんプライベートを仕事に持ち込むのはいかがなものか、という意見もあるとは思うのですが、当時まだ20歳かそこらの青年。「あーそれは異国の地で、さぞかし孤独だっただろうなあ」と、妙に共感したんですよね。

チームの中に受け身で積極的に仕事を取りに来ない部下がいて、モヤモヤしている上司の方はけっこういるのではないかと思います。多くの場合「どうすればもっと主体的に動いてくれるのか」について考えることはあっても、「そもそも、なぜこの部下は今受け身になってしまっているのか」について関心を持つことは少ないのではないでしょうか。

「共感」は現代のリーダーには欠かせない資質の一つと言われています。部下が今見ている景色と、同じ景色を見ようとすること。そこから信頼関係が生まれ、部下は少しずつ変化していくのだと思うのです。

部下の未来と目の前の仕事を繋げる

なぜ部下と同じ景色を見ることが必要かと言うと、部下の未来と仕事での目標が重なるところに、主体性が生まれるからです。

冒頭のインターン生の場合、日本での滞在生活の中で、懐石料理の哲学に触れて学びたい、という思いがありました。当時私が働いていたお店のシェフは料理に対して強いこだわりとストーリー性を持っていて、インターン生に任せたいと思っていた仕事は、その中でもとても重要な役割のひとつ。シェフの思いや、インターン生への期待を話してみたところ、彼の中には「この仕事にしっかり取り組めば、自分が得たかったものが得られる」という納得感が芽生えたようでした。

「自分はなぜこの仕事をやるのか」という自分なりの意味、意義は、仕事においてとても重要な気がします。これが無い状態では、仕事はあくまでも会社の仕事であって、「自分ごと」になっていないからです。どうすればもっと効率的にできるか、もっと質をあげられるか、といった発想ももちろん生まれてきません。

このインターン生は面談の翌日から、積極的にメモを取り、日本語を覚え、仕事にも主体的に取り組むようになりました。周りのスタッフのサポートもあって、インターンが終わるころには「いつでも戻っておいで」とシェフから言われるような人材に成長。当初誰も予想していなかった結果でした。

舵を握っているのは誰か

とはいえ、もし私がこのインターン生に何をやるのか、逐一指示を与えていたとしたら、受け身な状態はあまり変わらなかったのかもしれません。ひととおりの仕事を触った頃に、彼が本来持っている創造力や思考力を引き出すためにやったことは、「舵を渡してしまう」ことでした。

ひとつのポジションを任せ、一日の中で準備しなければいけないことのリストを伝え、後は自由にやってもらう。求める結果はこちらで指定するけれど、途中のプロセスには干渉しない。自分で仕事を組み立てる自由があると、そこには主体性が生まれます。17時に仕事が完了するために、何をどういう順番でやる必要があるのか、自分で考え始めるわけです。

こちらから全ての指示を出していた時にはまるで気づかなかったのですが、このインターン生は本当にセンスが良く、抜群に仕事の組み立てができる子でした。舵を完全に渡してからは、まるで別人のようにメキメキと才能を発揮して、チームでも欠かせない存在になりました。

「部下が受け身で困る」と嘆く上司の中には、自分で舵を握ったままの人がいます。仕事を組み立てる自由や、決断する権限を与えないまま、相手に主体的に動くことを求めているのです。誰かが既に舵を握っているのに、舵を取れと言われることほど難しいことはありません。

わたしは部下の人材育成とは、「覚悟を決める」ことだと思っています。舵を渡すということは、船の行く先を任せることなので、その結果に不安が生まれるのは当然です。それでも部下の成長のために、「舵を渡すと決める」こと。そのプロセスを見守ること。起こる結果を受け止め、責任を持つこと。

自分自身がまだチームの中で若手だった時、そんな風に関わってくれた何人もの上司を思い出します。チャレンジしたり失敗したりできる場を創り、いつもわたしの出来ないところではなく可能性を見てくれた。

育成のスタイルは、人から人へと受け継がれていくもの。主体的に動けるスタッフを育てられる人を、次の世代にも残していきたいですね。

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