デザートのパターンを壊す~再構築~

レストランのデザートを作っているのに、気づいたらお皿の上にパティスリーのプティガトーと同じものが乗っている。プティガトーとソースとフルーツとアイス。
その場で組み立ててすぐに提供できるのは皿盛デザートの醍醐味なのに、パティスリーでも買えるものを置くのはちょっともったいないと私は思います。

でも専門学校では詳しく皿盛デザートをやらないし、やりかたが分からない。そんな時にまずおススメしたいのは”再構築”

パーツに分解する

この手法は料理でも良く使われますが、題材になるものはできるだけクラシックで誰でも知っているお菓子がいいです。何故かというと”見た目が全く違うけれど、口の中に入れるとショートケーキ”というデザートを成立させるためには、顧客が既にショートケーキを知らないと成り立たないからです。

”苺のタルト”を例にとってみましょう。
まずは構成要素を分解します。

①タルト
②クリーム(クレム・パティシエール、クレムディプロマットなど)
③苺

です。これ以外にも艶出しのナパージュ、飾りのクレム・シャンティ、色どりでピスタチオやアーモンドなども考えられますね。

パーツを展開する

次は、この分解した要素を展開していきます。

例えばタルト生地はパート・シュクレであることが多いですが、ひらたくいうと要は”サクサクした食感”です。
パート・シュクレをそのまま長方形で薄くして焼くというのも一つの案ですが、食感を再現できるものを考えてみる。そうするとクランブルやサブレ・ブルトンなども使えそうですし、パート・ブリゼを使ってもいいかもしれません。

それぞれの要素に対して考えられる表現の方法を全部書き出していきます。
例えばディプロマットクリームなら
・バニラムース(ディプロマットにゼラチンを加えて絞って使う。)
・バニラアイス(完全に同じではありませんが、味の要素としては似ています。)
・バニラのパルフェ(型に流して四角くカットする)

デザートを構成する要素をできるだけ抽象的にとらえるほうが、柔軟なアイディアが生まれます。艶出しのナパージュなら”艶”や”光るもの”ととらえます。
そうすると例えば苺のクリアなジュレのシートや、飴細工で作った薄い板なども表現の一つとして考えられます。

レストランならではの要素を加える

書き出したそれぞれの要素の表現方法から、どれを組み合せるかを考えます。シンプルにクランブル・バニラムース・苺を組み合わせると、口の中で完全に苺のタルトになりますが、これではちょっと面白くありません。

ではどうするかというと、ここにレストランだから出来る”温度””食感””香り””色”を加えていきます。
《温度》
バニラのアイスやパルフェで”冷たさ”を演出できます。他にも苺のグラニテやソルベを使ってもいいかもしれません。また彩のピスタチオをアイスとして添えるのも良いですね。デザートの種類によっては、温かいチョコレートのソースや、栗のスープなどで”温かさ”も表現できますね。

《食感》
レストランデザートの利点は、お持ち帰りしないということ。つまり、耐久性を考える必要がありません。クリームはとことん柔らかくすることができますし、サクサクの食感を活かすために、クランブルやブリゼのパイなどをその場で盛ることができます。(オペレーションのためとはいえ、クリームを挟んでスタンバイしておくのは出来るだけ避けたい、と個人的には思います。)

《香り》
ハーブやスパイスの香りは、レストランならではの表現のひとつです。香りはよほど強い香りのもの以外は、日がたつとどんどん香りが弱くなります。例えばハーブのジュレは、作ったその日が一番香りが強いですし、柚子やレモンなど柑橘の香りも、お客様の前に出す瞬間に表皮を削れば、びっくりするほど香りが立ちます。
また料理で使われるクローブやカルダモンなどのスパイスを、クリームやアイスと組み合わせるのも面白い。レストランのコースの場合もちろん全体の流れを意識することは大切ですが、パティスリーと比べて食材の組み合わせを冒険できるのが、レストランデザートの醍醐味だと思います。

《色》
カラフルな色の表現も、レストランならではの方法が。お持ち帰りのパティスリーのケーキは耐久性を考えてミントやセルフィーユを使うことが一般的ですが、レストランはその場でハーブを置けるので、少し繊細なマイクロハーブやミニハーブも使うことができます。シソの香りを加えるペリーラや、アニスのマイクロリーフなどは、香りが強すぎず、デザートにもぴったり。
またエディブルフラワー(食用花)の色の種類はどんどん増えています。マイクロビオラなどの指の先ほどの花は一輪でおいても可愛いですが、市場でも良く売られている金魚草などは花びらに分けて飾ると、お皿の中に動きが出ます。

 

パティスリー育ちのパティシエは、最初少しレストランデザートに戸惑うかもしれません。一つにまとめる、ということをずっとやってきているので、崩すことが難しいのだと思います。
ですが、一度コツを覚えると、レストランデザートは無限の表現の可能性があるので、本当に面白いです。またパティスリ―で作るようなプティガトーは、ほぼすべてデザートに展開することができます。

基礎がしっかりできている職人が、”パターンを崩す”という表現をすると、そのクオリティはとても高くなります。是非、自分らしいデザートの表現方法を探してみてください。