レシピも人材育成も時代と共に進化する

“レシピは時代と共に変わる”

学生時代、研修先のお店のセカンドシェフに言われた言葉。
今思うと、この考え方は私の人生に大きな影響を与えていたなあ。。。

レシピは時代と共に進化する

19歳、フランス人の職人の世界で修行を始めたばかりの頃、私は色んなレシピを集めることに夢中になっていました。

私がフランスで研修をしていたブルターニュのお店には、同い年の19歳のセカンドシェフがいたのですが、ミスを人の所為にする(笑)、とか、まあフランス人的な要素はしっかりありつつも、それはもう仕事の出来る方でした。
私のフランス語がつたなすぎるので、彼との会話はもっぱらお菓子のことばかり。以前に作っていた美味しいケーキのことをたくさん教えてくれて、”レシピ欲しいなあ”と言うと、”いいよ、今度持ってきてあげるよ”といつも言ってくれていたのです。

レシピはパティシエにとっては大事な宝物。私が帰国して1件目に働いたお店でも、すべてのレシピは門外不出で、同級生の間でも、こっそり自分のお店のレシピを交換したりしたものです。

ところが、このセカンドシェフは出し惜しみをするどころか、”そういえば前のココナツのも美味しかったんだよ”と、さらに別のレシピをくれたり。
同じ町のパティスリーで研修していた同級生はレシピのメモするのを渋られると言っていたので、ある日そのセカンドシェフにに尋ねたことがあったんです。

”どうしていつもすぐにレシピをくれるの?秘密にする人が多いって聞くのに”
アキ、レシピは時代と共に変わるんだよ。人の嗜好が変わったら、レシピも変えていかないといけない。ここにあるのはただのメモだよ。もし将来僕がどこかでシェフになってこのレシピを使うとしたら、僕はきっとアレンジを加えて進化させる。職人ってそういうものだよ。”

日本とは違い14歳ぐらいからアプロンティと呼ばれる見習いのシステムがあるフランス。このセカンドシェフは19歳ですでに5年のパティシエ経験がありましたが、それでも同い年の人から出てきた台詞とは思えず、感動したのをよく覚えています。

それ以来、私のレシピに対する考え方はガラッと変わりました。

レシピを出し惜しみしない

それから何年も経験を積んで、シェフパティシエとして働くようになりました。
一緒に働いている料理人や、会社内の他店舗のパティシエ、後輩たちなど、色んな人から

”これ美味しい。どうやって作ってるの?”
”この飾り面白いね。どうやって作ってるの?”

と自分のデザートに関する質問をされる。

私の答えはいつも決まっています。
”レシピ、いります??”

苦労して作り上げたレシピだからと教えるのを渋るパティシエもまだまだいるので
あまりにあっけらかんとしている私に、驚く料理人のかたも多かったです。

私にとってレシピはツール。

一度、クオリティを維持するために、調理法を時間は秒単位、塩0.1g単位で全て記載するキッチンで働いたことがありますが、安定させることは難しい。
デザート以上に、料理で使う野菜や魚などの素材は日々状態が変わります。大きさも固さも一定ではない。
大切なのはマニュアルではなく、シェフがどういう状態に持っていきたいのか、という部分です。

デザートにしても同じことなのです。お菓子の生地の状態は文章では表せません。正直、横に立って見ていても、自分で実際にやってみないとよく分からない。使う材料や器具が違うと、微妙なニュアンスが変わってくる。

つまり、全く同じレシピでも、同じものが再現できるわけではないのです。

私がレシピを惜しみなく渡していたのは、その料理人やパティシエの持っている個性と合わさって、面白い科学反応が起こるといいなあと思うから。時には、相手が進化させたレシピを逆輸入(!?)することだってありました。
”え!その発想新しい!”と(笑)。

同時にそれは、自分が既にあるものや、今までのやり方に執着しない、ということでもあります

シェフパティシエ時代に良く感じていたのですが、新しいメニューのレシピを部下に渡すと、”こうしたらもっと良い状態にあがるんじゃないか”とか、”こうしたら効率がいい”とか、そのデザートを近くで見ている彼らのほうが、レシピを進化させてくれる。

デザートのクオリティが上がるなら、それはチームにとっても、顧客にとっても価値のあることです。

人材育成も進化する

そんなわけで私は、”今までのやり方では後輩を育成できない”と感じた時に、コロっとやり方を変えることが出来たのだと思います。

元々は東京のけっこう厳しい店で修業をしたので、先輩の背中から学ぶのが当たり前。新しく何かをしたければ、勇気を振り絞って”やらせてください”と、シェフにお願いするような世界でした。

でも私はそのときのやり方を脇に置いて、”どうしたら後輩を巻き込めるか”、”どうしたら後輩がデザートを楽しいと思えるか”という育て方にシフトしました。

会社の研修で出会った人材育成が得意なサービスのマネ―ジャーに相談し、色んな人材育成の本を読みました。

人材育成に悩んでいるという職人に話を聞くと、”自分の育った方法がこれだから、同じ方法でしか育てられない。職人の世界はそんなに甘くない。”という答えが返ってくることがあります。

よくわかります。すっごくよくわかるのです。私自身、以前はそう思っていたので。

でも、時代は日々変わっているのです。
昔の若い職人は、有名なシェフの下で働くことや、良いお給料をもらうこと、将来自分のお店を持つことを夢見てモチベーションを上げましたが、今の若い世代はもっと多様です。

”どうしたら部下が成長するか”、”どうしたらチームが進化するか”を考えるとき、今までのやり方に捉われず、色んなやり方をしてみたらいいと思います。

新しい料理を試作するときに、今までに使ったことのなかった真空調理とか、パコジェットとか、SOSAシリーズとかを試してみるような感覚です。実際に使い続けるかどうかは、どちらでもいい。

ただ”試してみたけど自分はやらない。”と、”やったことないけど、好きじゃない”には、大きな差があります。

 

その世界を一度見に行ってみる。

世界を広げたうえで、どちらのほうがチームを進化させられるか考えてみる。
もしかすると新しいやり方のほうが、素材の良さが生きると気づくかもしれません。

現状維持は退化、進化するものだけが生き残る