キッチンでスピードを上げるなら”引き算”を意識する

どうしたら部下の仕事のスピードがあがるのか、は上司の永遠のテーマかもしれません。
私たちの上司もまた、同じようなことを感じていたのでしょうから、
自分たちが教える側に回ったということですね。
でも、ただ”急げよ!”と言うだけでは、もしかしたらちょっと効率が悪いかもしれません。

スピードを上げるには徹底的に引き算をする

以前、懐石料理のレストランでデザートをつくっていたことがあります。
海外で修行をされたシェフが提供していたのは、
モダンジャパニーズと呼ばれるとても華やかなコースをゲストでした。
レストランにはお客様が目の前で職人の仕事をみることができるカウンターがあって、
コース料理の中でも特に目を引く八寸と向付を、二人の職人が盛りつけていました。

海外からのゲストが非常に多いお店だったので、シェフ以外で唯一、
フランス語と英語を話せた私も、時々カウンターに立たせていただくことがありました。
ある満席営業の夜、自分の八寸を盛り終わってふと横をみると、
向付を盛っていた職人さんのテーブル周りがほぼ綺麗に片付いているのです。
最後のテーブルに必要な材料だけを残し、営業中に使った器具も綺麗に洗い上げられて。

懐石料理の順番は先付→八寸→向付なので、本来であれば私のほうが早く終わるはず。
なのに、その職人さんは裏のキッチンの片付けまで始める余裕っぷり。
私は仕事のスピードはどちらかというと早いほう、と自負していたので、
正直かなりびっくりしました。

その方は20年以上職人をされていて、仕事を見ていても本当に動きに無駄がありません。
使う器具は最小限で、このバットはこれに使いまわせる、
これは今日はもう使わない、といつも先を見ています。
営業の終盤に近付くと、盛り付けに使った様々なパーツも
最後の一皿を盛りながらどんどん片付けていきます。
必要のあるものを極限まで絞っているので、テーブルのうえもスッキリしていて、
仕事のスピードがメチャメチャ早い。

とにかく無駄がないのです。

和食の世界は基本が”引き算”です。
カウンターの寿司や割烹に行ったことがあれば経験したことがあると思いますが、
優れた和食の職人の動きは、本当に見ていて美しいと感じます。
動きに無駄がなくてスピーディーで洗練されている。

ちょっと想像してみてほしいのですが、
もしカウンターのテーブルの上がグチャグチャで、
”あれワサビはどこだっけ?”
”あ、盛り箸さっき洗い場に突っ込んじゃった、洗わなきゃ”
とかやっていたら、スピード感なんてとても感じられませんよね。

動きの速さ=仕事が早いではない

”急ぎなさい!”と先輩から言われると、
目に見える行動自体をできるだけ早いスピードでこなそうとする部下がいます。
”急ぐ”ということを意識すること自体はとてもいいことなのですが、
こういう部下は大抵、キッチン内をパタパタ走ったり、
片付けずに次の仕事に移ったり、テーブルの上がグチャグチャ、
洗い場のシンクにも洗い物がたまりまくる。。。というケースが見られます。
とりあえず目の前のことだけをこなしている。

”急ぐことと焦ることは違うと、私は部下によく言っていました。
人は焦ると考えずに行動を起こしがち。
例えば生産性が決して高くないチームに行くと、
洗い場が器具であふれかえっていることがあります。
良く考えて仕事を進めればもっと少ない洗い物で済むのに、
焦っているのでひとまず全部洗い場に突っ込む。
そして次の作業を始めるときに”あれがない、これがない”
と洗い物から始めることになる。動きの中にとても無駄が多い。

これは私の持論なのですが、テーブルや洗い場にはその人の頭の中が表れている
と思っています。
(因みにこれを部下に言うと、部下はいそいそとテーブルの上を片付け始めます、笑)
和食の職人に限らず、フレンチでもイタリアンでも私が出会った出来る職人は、
皆さん総じてテーブルがスッキリしていて、洗い場にも器具がたまりません。
彼らの仕事のスピードの速さは、ひとつひとつの仕事の速さだけではなく、
計算された無駄の無さにあります。

とりあえず、を止める

仕事のスピードがなかなか早くならない、無駄が多い原因のひとつは
”とりあえず”が多いということです。
”まだ使うかもしれないから、とりあえず置いておこう。”
”何かあるといけないから、とりあえずこのままで。”

その場でジャッジせずとりあえずを積み重ねると、
後でもう一度ジャッジする必要が出てきます
二度手間ですし、仕事が後ろに後ろに押してしまうのです。

前述の和食の職人さんは、かなり思い切りが良く、頭の中でパパっと計算して
”捨ててもどうにかなる”と判断すれば、どんどんその場で片付けるという方でした。
もちろん時々計算が外れて
”いらないと思って捨てちゃったよ~、なんで倒しちゃうんだよ~!”
みたいなことはありましたが、どうにかできると分かっているからこそ、
その場で判断してしまうので二度手間になりませんし、
そもそも計算が外れること自体があまりありません。

仮に念のためとっておくとしても、ラップにくるんでボールは洗ってしまう、
とかそのサイズ自体を小さくしてしまうのです。
必要なければそのままゴミ箱にいれるだけで済むように。

テーブルの上と頭の中がリンクしているというのは、
”あとで判断しよう”と思ったことは頭の中にも残っているからです
洗い場にものをためる人は”洗い物しなきゃ”が常に頭にありますし、
”とりあえず置いといて後で捨てよう”もその人の頭の中に残っています。

可能な限りその場で判断するのは
頭の中をスッキリさせる、
という意味合いもあります。

とはいえ経験の浅い部下に対してこの手法をとるのはちょっとリスクがあるので、まずは
”今の仕事のやり方の中で、引き算できる(やらなくていい)ことは何?”
と聞いてみるのもいいかもしれません。

少し答えに困るようなら、
”今何に時間がかかっていると思う?”
と聞いてみます。

もし”洗い物をいつもためてしまって、仕事が思うように進みません”
という答えが返ってくるなら、
”じゃあどんなふうに洗い場が片付いているのが、あなたの理想?”と聞いてみます。
そこからそもそも洗い物を減らすにはどうしたらいいのか、
という具体的なアプローチに入ります。

同じチーム内にこの部下が尊敬する仕事の仕方をしている職人がいるなら、
もっと話が早いです。
私たちの学びはいつも、優れた職人の背中をみることから始まります。
そして、”その人はどんな風に仕事を進めている?”と聞いてみます。
もし分からないようであれば、”観察してごらん”と言って、一旦部下に任せます。

これは今後部下が誰かから学びを得る習慣をつけるためにも、とても大切なステップです。
今の若い世代は特に、自分から取りに行くというよりも、
受け身な子が多い印象があるので、学び方を含めて育成をしていくことは、
彼らの将来にとっても、チームにとっても価値のあることです。

 

たまには”明日は何を止めてみる?”という質問を投げかけてみよう。
引き算をすると、空いたスペースに新しいものが入ってきます。