部下のモチベーションに火をつける方法

“部下にヤル気が見えない。”
”自分達の若い頃はもっと貪欲にスキルを学ぼうとしていた。”
こう思うリーダーの方は決して少なくないと思います。

でも少しのきっかけで、部下は化ける可能性が大いにあります。

部下は本当に興味がないの?

私が帰国してすぐに一緒に働いた部下も、どちらかというとやる気が見えないタイプでした。彼女は同い年でカフェ育ち。工場から届くタルトにフルーツをのせる仕事をずっとしていたので、クレムパティシエールを炊いたこともない。専門学校も出ていなかったので基礎知識もほぼゼロ。
にもかかわらずまっっっったく勉強しない(笑)シフトがでると休みの予定を全て埋め、ギリギリに出勤して、定時に帰る。”君はOLなのか⁉”と突っこみたくなるぐらい、職人としてのヤル気が見えなかったんです。

私も周りも期待をしていなかったので、彼女に出来る仕事だけを教えて、特に新しい仕事にチャレンジさせるようなこともしませんでした。”基礎がないんだから勉強したほうがいいよ。”と、失敗するたびに言うと、ショボンとしながら”はい。”と答えるのですが、彼女のやる気はどんどん萎んでいきました。

そしてちょうど一年ぐらいたった頃、会社で人材育成の研修があったのです。部下のいる社員を集めて、いかに自分達が自分の目線だけで指導をしているか、部下のパフォーマンスをあげるにはどうするか、を学ぶ時間。研修のなかで私は思いました。

彼女が出来ないんじゃない。
私が彼女を出来なくさせていたのだ、と。

部下に人としての興味を持つ

彼女は自分がチームの一員だと感じていませんでした。入社してすぐは頑張る気持ちはあったと思いますが、”どんなにやっても認められない”と感じて、どんどん気持ちが萎んでしまった。

愛情の反対は無関心。当時の私は、そもそも彼女の思いや背景にまるで興味を持っていなかったのです。彼女が何を感じているか、どうなりたいかを知ろうともせず、”パティシエはこうあるべき”という自分の理想像を押し付けていた。

彼女がモチベーションを見つけるためには、まずデザートに興味をもってほしいとおもいました。そのためにも、私自身がまず彼女に興味を持つ必要があったのです。

彼女の今までの経験を考えた時、そういえばフルーツをずっと扱っていたのだということを思い出しました。今までは彼女が出来ない部分ばかりが見えていたので、気づいていなかったところ。
レストランのデザートは季節のフルーツを使うことが多いので、次の月のデザートを考えるときこう尋ねまてみたのです。

”5月のフルーツって何が美味しいかな?”
彼女はちょっとびっくりしてから話し始めました。

”アメチェリもありますけど、柑橘もたくさんでますよね。甘夏とか、カラマンダリンとか”
”あー初夏っぽいね。何と合わせてたん?”
”う~ん、ピスタチオとか。でもレストランでやるにはベタすぎますかね?”
”そうねえ、なんかあれ、甘夏とローズマリーとか面白いかも。”
”え!ローズマリーって合わせたらどんな感じになるんですか!?”

実際、彼女は私以上にフルーツのことを知っていました。旬も扱い方も値段もよく知っていて、私はそれ以降新しいデザート創るときには、必ず彼女の意見を聞いてみるようにしました。同時に彼女が今まで触れたことのない食材の組み合わせや、新しいレシピを取り入れることで、彼女が新しい学びを楽しめるようにこころがけました。

そうして信頼関係が少しずつできると、彼女は普段の仕事のなかでも”この生地がこんな風になるのはどうしてですか?”とか、パティシエの技術に関する質問をたくさんしてくるようになったのです。

しばらくたった休み明けに、いつものように
”お休み何してたん??”と尋ねた時、
”この間教えてもらった心斎橋の料理書のお店に行ったんです!!たくさんありすぎてどれ買うか迷いました!”
と言われたときには心底びっくりしました。あれ、いつからそんな勉強熱心になったの??と。

褒めることと関心をもつことは別

今の若い世代は褒められて伸びる、みたいなことを聞いたりもしますが、実際はそうではないと思います。どちらかというと自分に対して関心を持ってほしいのです。

前述の部下に対して、私は出来た時には褒めましたが、出来なかったときにはちゃんと叱りました。やみくもにイライラをぶつけるのではなく、彼女の失敗が顧客に対してどんな影響があるか、次はどうするのかを、二人で必ず話しました。

以前の関係性なら彼女は右から左に聞き流していたでしょうが、信頼関係が出来ている状態での言葉を、彼女はちゃんと受け止めてくれました。”次回はどうするの?”という問いに対して、自ずから対策を考え実行できるようになっていきました。

キッチンでのコミュニケーションは、上司から部下への一方方向になりがちなのですが、部下に関心を持とうと思うと必然と質問が増えます
因みにコーチングではたくさんの問いかけをすることで、相手の気づきを引出しますが、その時に一つ条件があります。それは”Why(なぜ)?”を使わないこと。

”なぜ失敗したの?”と問われると、人は責められている感じがするのです。そうすると部下は必然と防御、つまり言い訳をしたり、自分を正当化する傾向があります。
部下がいつも言い訳をする、と感じているリーダーは、どんな言葉で自分が問いかけているか、一度注意してみてください。もしかすると”何が起きたの?”と聞いてみると、違う答えが返ってくるかもしれません。

 

実際のところ、火をつけられるのは部下本人なのかな、と個人的には思っています。上司ができるのは、そのきっかけとなる火花を散らすこと。それはきっと、あなたの料理への、そして部下への思いが相手と繋がるときかもしれません。