業務量のバランスを整える”その仕事は本当に今日じゃなきゃダメ?”

仕事が押しがちなスタッフの特徴の一つに”明日の仕事を軽くしたい”というのがあります。明日の分の業務を今日やっちゃう、というやつです。

一人の仕事が終わらないとチーム全体への影響もありますので、ちょっと考えておきたいこの問題。

前倒しはキリがない

以前一緒に働いていた部下で、お店が忙しくてもそうじゃなくても、常にパンパンに仕事をもっているスタッフがいました。

チームメンバーの休みや自分の休みを計算に入れてできるだけ自分でやりくりできるように頑張ってくれていたので、あまり細かいことには口だししていなかったのですが、一方で”何故常にそんなに業務があるんだろう?”と、すごく不思議でもあったんです。

ある日、そのスタッフが急病で休むことになり、穴のあいたポジションに入ったとき、その理由がわかりました。それは、ものすごい量のストックが冷凍庫にあったから。

当時の私は結果重視で、仕事が問題無く回っている限りプロセスには細かく口出ししていなかったので、そのスタッフの在庫管理に気を配ってなかったのは完全に私のミスでした。

翌日出勤したスタッフになぜこんなにも在庫を増やしてるの?と尋ねると、
”何かあると困るから、常に一定量のストックが欲しい”

気持ちはわかります。が、例えばグラニテ(氷菓子)は作ってすぐが一番状態が良い。デザートのパーツは冷凍できるのものが多いけど、そうはいっても長く冷凍庫に入れると匂いも付きますし、クオリテイは下がります。

そしてもう一つのそのスタッフの不安は
”急に仕事がふえることがあるので、常に前倒しで仕事したい。”

仕事をぎりぎりでやらない。ある程度余裕をもってやる、というのは大切な時間管理の要素です。けれども、”必要かどうかわからないけど、ひとまず今日ある時間を全部使って明日の仕込みを軽くしたい。”という発想は少し、本質から矛盾しています。

なぜなら、このタイプの部下は翌日も同じことを思うのです。”明日余裕ができるように今日も前倒ししよう”と。

これ、エンドレスに忙しいです。今日やらなくてもいいことで、ずっと忙しいのです。しかも、早めに仕事が完了した周りのスタッフも”なんだなんだ、忙しそうだぞ”と手伝うことになる。

で、これいつ使うやつ?、と聞くと、来週です。と帰ってきて”え!今日じゃなくても良かったんじゃないの?”となったりする。

部下の不安を解消する

とはいえ、”これ今日やらなくてもいいでしょ?”と直球勝負すると、部下は戸惑います(因みに私は最初これをやってしまい部下を困惑させてしまった)。

部下は不安なのです。おそらく過去に営業中や婚礼の最中にトラブルが起こって、何かが足りなくなって困ったことがあるのでしょう。ケーキが乗っている天板ごとひっくり返した、とか。

そしておそらく、予期していなかった仕事が増えて仕事が終わらないときに、誰にも手伝ってもらえなかったのかもしれません。

私の経験上、常にプレッシャーをかけまくるシェフの下で育った部下は、この傾向が強くなるように思います。シェフを怒らせるのではないかといつも不安で、念には念を入れる。悪いことではないのですが、せっかく顧客を幸せにできる職人という仕事についているのに、矢印が顧客ではなくシェフに向いてしまっているのは、少し残念です。

不安は人によって感じ方が違います。自分が不安に思う点、程度と、他人の不安になるところは同じではありません。

チームの業務量のバランスを整えるためには、部下が今何に不安を感じているのか、をきちんと理解したうえで、ではどういう状態になっていればその不安が軽くなるのか、をまずは一緒に考えることが大切です。

”何かあったら助けるから言って”と普段から伝えておき、実際に相手が困ったときには率先して助ける。この経験が繰り返されると、部下は”何かあってもどうにかできる”ことがわかり、不安が少しずつ減っていきます。

次世代のリーダーを育てる

不安がある程度解消できたら、次は部下にストレッチをさせます。
キッチンで働いていると、予測できない事態はよく起こります。”備えあれば憂いなし”といいますが、”備えあってもトラブルあり”です。
だからサバイバルスキルというか、ピンチに立ち向かえる力って大事です。

今まで一緒に働いたなかで最強にすごかったのは、当時23歳だった隣のチームの部下。何事にも動じない性格で、一度なんてコースの二皿目の料理で飾りにポップコーンを使っていた時、一皿目を盛っている最中に”ここのポップコーンあるよね?”と確認したら、”あ、忘れてた”と盛り付けと同時進行でフライパンでポップコーンを炒り始め、二皿目が出るタイミングでちょうど仕上がったポップコーンを乗せたことがありました。

”ほんと落ち着いてるよね?”と言うと、”いや、テンパっても事態は変わらないじゃないですか。”という彼。どう育てるとこうなるんだろう?と逆に感心してしまいました。(もちろんきちんと準備することも大事ですよ。)

部下を育成することは、単純に職人としての調理スキルを教えるだけでなく、次の世代のリーダーを育てることです。

もしトラブルが起きた時にシェフがテンパっていたら嫌ですよね?チーム全体が混乱してしまいます。シェフがどーんと構えて、”大丈夫”という空気感をだしていると、チームも落ち着いてトラブルに対処できる。

部下がそんなシェフやリーダーに将来なれるように、普段から何もトラブルが起こらない万全の状態をつくらず、ある程度ストレッチさせる。将来を見据えて仕事のやり方を少しずつ進化させる。

 

今の仕事の進め方が、部下の将来にとってどんな影響があるのか。
”どんなシェフになりたい?”そんな話を一度部下としてみるのもいいかもしれません。