なぜ、現場でコーチングが機能しないか

本やセミナーでコーチングを学んで現場で実践してみたけど、上手くいかない、という意見を聞きます。
コーチングが機能するorしないには、どんな違いがあるのでしょうか?

スキルだけでは意味がない

私が人材育成に迷ったら読む本でも紹介している「人を動かす」という本に、”名前を呼んで挨拶する”という項があります。

とあるチームに私が新しく入ったときに、そのチームのリーダーが同じ本を読んでいました。それで”あの挨拶って強烈にチームの雰囲気変えますよね”と話したところ、”俺もやってみる”と言って次の日から”〇〇さん、おはようございます。”と挨拶を始めたんです。

ところが2週間ほどたつとその方は挨拶を止めてしまい、理由を尋ねるとこういうのです。
”あれってそんなに効果ある?”

う~ん、それだと効果ないだろうなあ、と私は思いました。もちろん言いませんでしたが。

このリーダーが”名前を呼んで挨拶する”というスキルを使っていたのは、チームの雰囲気を変えたいからでした。志しは悪くないのですが、そこには”相手を動かそう”という意思が見えてしまいます。
実際部下たちは、”この上司、急に名前呼び始めて裏で何考えてるんだろう?”と思っていたらしい。

コーチングは確かにコミュニケーションのスキルなので、例えばリフレイン(相手の言葉を繰り返す)、質問する(相手の言葉を引出す)など、様々なスキルがあります。
が、スキルだけでは残念ながら機能しません。もし機能するとしたら、人材育成で困っている人は本さえ読めば解決できることになっちゃいますよね。

そこに信頼関係(ラポール)はある?

コーチングを機能させようと思ったら、大前提として相手との間に信頼関係(ラポール)を築く必要があります。”この上司何企んでるんだろう?”という発想が生まれる時点で、上司と部下の間にラポールはありません。
ラポールは元々心理学の用語で、語源はフランス語。”橋をかける”というような意味合いがあり、共感によって何を話しても大丈夫という関係性にある状態をいいます。

”相手の名前を呼んで挨拶する”というのは、相手を動かすための方法ではなく、この信頼関係を築くためのもの。実際に、あまり挨拶をしない職場でこれを実行すると、結果としてチーム全体が挨拶をするようになり雰囲気が良くなるのですが、それはあくまでも結果であって目的ではない。

コーチングは対話のスキルなので、まずは相手が安心して何でも話せる環境をつくることが大切です。部下が上司に対して心を閉じていると本音を話してくれないので、そもそも対話が成り立ちません。
なんでも話してもらうためには”何でも言ってよ!”と言葉をかける・・・・のではなく(実際にこれをやる人がいるのですが)、自分自身がまず心を開くことで相手に安心してもらいます。
上司の若いころの失敗談などが、部下との信頼関係を築くのに役立つのはこのためです。

部下を見ているか、自分を見ているか(コーチングマインド)

ある程度信頼関係ができているはずだけど、コーチングが機能しない場合は、”今だれのほうを向いているのか=コーチングマインド”を一度見直す必要があるでしょう。

絵本「星の王子さま」を書いたフランスの著者サンテグジュペリの言葉に
”愛するということは互いに見つめ合うことではなく、ともに同じ方向をみつめることである”
というのがありますが、これはまさに人材育成において大事なポイント。

互いに見つめあうことは一見信頼関係があるように見えて、実は相手の目に映る自分自身を見ていることがよくあります。対して同じ方向をみつめるということは、部下の未来をその横にたって一緒に見る、ということ。これがけっこう難しくて、気づくと自分をみていること、よくあるんです。

例えば”こんなんじゃ余所行ったら通用しないからな!”と注意しながら、実は部下が本当はどんな未来を描きたいのか聞いたこともない。それだと自分の描く未来を相手に押し付けているかもしれません。今は料理の世界も多様化していますし、若い子の中には”だからこの店にいるではないか”と、思う子もいるぐらいなのです。

また同じ方向を向くという点でいくと、”そのやり方は直したほうがいいけれど、辞めると困るので何も言わない”と言うケースも、如何に相手の未来を見ていないかが分かります。

部下の未来を本気で一緒に見つめると、言葉が変わります。将来フランスで修行したいと考えている部下に”あっちに行ってから活躍できるように、うちで成長してほしい。そのために必要なことを一緒に頑張ろう”と心の底から言えるようになります。また相手の可能性を100%信じてその成長をサポートすることで、相手の本来持っている才能を引き出すことができます。

自己基盤を整える

信頼関係もあるし、部下の未来を一緒に見つめている、けれどもコーチングがうまくいかない。としたら、その最大の要因は自己基盤です。私はコーチングを学び始めてから、ここにやっと気づきました。もっと早く知りたかった(笑)

自己基盤は全てのベースになる部分です。ここが弱い、つまりグラグラしていると、そのうえのスキル・ラポール・コーチングマインド、すべてのバランスが崩れやすくなります。例えば”やっぱり自分には部下は育てられないんじゃないか”とか、”自分は上司として信頼されているんだろうか”とか、自分への自身の無さは、必然と部下に接するときに出てしまいます。

コーチングを機能させるためには、自分自身が実際にコーチングを受けることです。私もコーチングを受けていますが、それはまだまだ未熟だからではなく、何年もやっているプロのコーチでも自分のコーチをつけていたりします。それぐらい自分自身のことは分かりにくいもの。

コーチングを受けると自己基盤が強くなります。自分を理解し、弱みをふくめたありのままの自分を受け入れ、自分自身を承認するというプロセスを経験するからこそ、同じことを部下に提供できます。
本で良いと書いてあるから”相手の話を聞く”のではなく、しっかりと自分の話を聞いてもらうことで行動に移せたという経験があるからこそ、それが実践に活きてきます。またコーチと話すことで自分が実践したことで何が良かったか、改善点は何か、を明確にし行動を加速することもできます。

 

 

このようにコーチングが機能するためには、様々な要因が関係しています。
まず自分自身をよく知り受け容れたうえで、部下の将来を一緒にみつめ信頼関係を築くこと。そうして初めてスキルが活きてくる。
下準備が大事、プロセスを省略すると仕上がりに差がでるのは、お料理と同じかもしれませんね。