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海外旅のススメ「世界の果てで」~天狼院書店⑧~

20代のとき、フランスとオーストラリアで暮らしました。
個人的に、若いうちに海外生活を体験することを熱くおススメします。

なぜなら、多様な視点を手に入れ、世界を広げることができるから。

天狼院書店さんのメディアグランプリ用に書いた記事に、加筆修正したものです。(掲載はされなかったもの)
海外生活に興味のあるかたは、是非読んでみてください!

世界の果てで

「え、ちょっと、本気で言ってる?」

私はぎょっとして、隣で小学生みたいに、ピンと手を挙げている彼に言った。
「え、ごめん。実は早口やったから、あまりよく分かってない。今何て言ってた?」

ああ、良かった。ガイドの英語が聞き取れてなかっただけだ。
さっきの話聞いて、それでも行きたいなんて言わないよね、普通なら。

「部族の人達は、神聖な場所だと思ってるんだって。だから祭事のとき以外は、誰も登れないらしいよ。彼らの掟では」
「ふ~ん、でも一応観光客は登れるんでしょ? じゃあ、僕登りたい」

彼はそう言って、手をよりピンと伸ばした。
バスの周りの乗客からは、よりいっそう、冷たい視線が注がれる。

ドライバー兼ガイドの若いオーストラリア人が、言い聞かせるようにもう一度尋ねた。
「ここは、彼らにとって神聖な場所で、彼らは観光客が登るのを好んでいない。それでも君は登るの?」
「イエス」
彼の意志は揺らがない。

わかった、とドライバーは諦めたように言って、それきりバスは静まりかえった。

世界のおへそ、とも言われる、オーストラリア大陸の一枚岩、ウルル。
かつてはエアーズロックと呼ばれたこともあるこの場所は、今はその持ち主である原住民、アボリジニ達の言葉で、ウルルと呼ばれている。

2泊3日を一緒に旅する私たちのガイドは、レンジャーと呼ばれる国立公園の守護者みたいな人で、彼らの役割はアボリジニの文化を伝え守ることでもある。

バスは今朝、ウルルの最寄りの町であるアリススプリングスを出発したところ。
最寄りと言っても500㎞はあって、目的地に到着するのは夕方らしい。

食事は自炊で寝袋持参、というこの格安キャンプツアーに参加しているのは、10か国以上から集まった30人近い人々。
私は2年半のオーストラリア生活の締めくくりに、同じ時期にワーキングホリデーでこの国に来ていた、同い年のいとこと、このツアーに参加していた。

バスは、何もない赤土の大地に、真っ直ぐ、真っ直ぐに続く道を、時速100㎞ぐらいでとばしている。
最初はいかにも冒険っぽい景色にワクワクしたけど、おそろしく変化が無いので、30分もしないうちに飽きてしまった。

3時間ぐらい走ったところで、バスは荒野のど真ん中にあるガソリンスタンドで止まった。
外気温は47℃。
暑いとかいう次元を通り越して、もはや溶けそう。

街中のコンビニの2倍の値段で売られていた、生ぬるいコーラを飲みながら思った。
ここは世界のおへそというよりも、世界の果てのようだ。
自分がいた世界から、とてつもなく遠い場所。

夕方、ウルルの近くにあるキャンプ地で、バスは止まった。
食事といっても、食パンにハムときゅうりを挟んだだけのものでお腹を満たしたら、日の出に備えて寝袋で横になる。
時間はまだ20:00ぐらい。

私達と同じように寝袋におさまったガイドが、上半身だけ起こして皆に言った。
「稀にディンゴと呼ばれる野生の犬が、キャンプ地にエサを求めてやってくる。悪さはしないから、もし来てもおとなしくしてるんだ。エサが無いと分かったら、どこかに行くから」
ますます冒険ぽい、とか思ったのもつかの間、昼間の移動の疲れから、私はすぐ眠りに落ちたらしかった。

夜中。
「ハッハッハッハッ」
という、何とも言えぬ鼻息のような音で、目が覚めた。

なんだろ?誰だろ?変態?
いやいや、ここはオーストラリアの荒野のど真ん中だ。
そこまで考えてから、さっきのガイドの言葉が頭で繋がった。
ディンゴだ。たぶんディンゴの群れがそこに来てる。

怖くて目を開けられなかったけど、その野生の犬は、どうやらクンクン匂いを嗅ぎまわっているようだ。
ガサガサ辺りを物色していたが、何も無いと諦めたのか、やがて音が遠ざかっていった。
辺りに聞こえる音が完全に消えてから、そっと目を開けてみる。

そこには視界いっぱいの、満天の星空が広がっていた。
「星って、こんなにたくさんあったんだ………」

日本でよく見つけようとした、北極星もカシオペア座も北斗七星も、どこにあるのかさっぱり分からない。
それぐらい明るい光を放つ星が密集している。
昼間の暑さが嘘のように、頬に触れる空気がひんやりしていて。
空気が澄んでいるから、ひとつひとつの星がいっそう輝いて見える。

私はしばらく、その光景から目を離せないでいた。
綺麗すぎて。瞬きをするのがもったいないような気がして。
硬い土の上に寝っころがったままずっと、たくさんの光の粒を眺めていた。

世界にはまだまだ、私の知らない景色があるんだ。
小さい頃、兄の隣でファイナルファンタジーやドラゴンクエストを見て憧れていた、ファンタジーRPGの世界が、そこには広がっていた。

世界の果てで私が味わったことは、今までの自分の当たり前を、思い切りよくひっくり返してしまうようなことばかりで。
温度も、景色も、スケールも、そこに住む生き物も、全てが違っていて。
もっと他の景色も見てみたい。
自分の今までの当たり前が覆されるような体験をしたい。
そう、強く思った。

なんだか、いとこが
「もう二度と来れないかもしれないから、僕はウルルに登りたい」
と言ったのも、ちょっと理解できるような気がした。
彼はきっと、人生にはリセットボタンが無いことを知っているのだ。

翌朝、いとこは宣言どおりウルルに登り、私は他の人達とウルルの周りを一周した。
登山に興味が無いことも無かったけど、訪れた土地の文化や人を尊重したい、というのが私の本音だった。
ウルルの周囲にはアボリジニが描いた壁画が色んな所にあったし、歩きながら仲良くなったフランス人は、次の年パリの自宅に私を招待してくれるぐらい、仲良しの友人になった。
これはこれで、良い体験だった。

どんな選択をしても、面白い展開が待っているものだ。
だから「こっちが正解」という選択肢なんて、本当はどこにもないんだろうと思う。
一本筋のストーリーのゲームではないのだ。人生というのは。

それでも私は少し、いとこをうらやましく思ったりもする。
「誰が何と言おうと、僕はこれをやる」
と言える、その強さが。

人生にはゲームみたいなリセットボタンがない。
一度きりだ。
チャンスを逃したら、それはもうやってこないかもしれない。

どっちを選択しても正解なら、
「誰が何と言おうと、私はこれをやりたい」
そう思えるほうを選択したい。

その方がきっと、ワクワクできる冒険の旅になるはずだから。

ウルルの現在

ウルルは2019年10月26日から、登頂禁止となりました。
先住民であるアボリジニにとっては聖なる土地。
日本人にとって神聖な伊勢神宮の鳥居や社殿に、よじ登ったり落書きされている状態が続いていたと想像したら、個人的には禁止になって本当に良かったと思わずにはいられません。

ウルル周辺には、それ以外にも魅力的なスポットがたくさんあります。
「風の谷のナウシカ」の景色に似ていると言われるマウントオルガ、まるで異世界のようなダイナミックな景色が広がるキングスキャニオンなど。

一生に一度は、訪れたい場所の一つです。

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