近年コーチングの需要が高まる中で、プロコーチとしてや社内でコーチングを活用する上で、ICFの国際コーチング資格取得を目指す方が増えています。
その資格申請の要件の一つである「10時間のメンターコーチング経験」について、
「メンターコーチをどのように選べばいいのか」
「メンターコーチをつけたが自分と合わず、資格申請を中断している」
などのお声を聴くことがあります。
この記事では2022年にPCCを取得し、現在ICFアセッサーとしてまたメンターコーチとして活動している私自身の視点から、「メンターコーチの選び方」について5つのポイントをまとめました。
メンターコーチングとは何か?
まずはメンターコーチングの定義について確認しておきましょう。ICFでは、以下のように定義しています。
a collaborative process where coaches receive feedback based on observed sessions to refine their skills and style in alignment with the ICF Core Competencies.
「観察されたセッションに基づくフィードバックを受けながら、ICFのコアコンピテンシーに沿ってスキルやスタイルを磨くための協働的なプロセス」
Coaching”What is Mentor Coaching?” / ICF
基本的には、セッションの録音を聞いてもらう or ライブでその場でセッションを行い、ICFのコアコンピテンシーに沿ったフィードバックや対話を通して、コーチのスタイルやスキルを発展させていくためのセッションです。
またメンターコーチングには、
- グループメンターコーチング(一人のメンターコーチ+複数のコーチ)
- 1on1メンターコーチング(一人のメンターコーチ+一人のコーチ)
の2種類があり、ICF資格申請に求められる10時間のうち、最低3時間は1on1でのメンターコーチングを受けることが必要です。
▶グループと1on1の違いとは?
私の感覚では、グループは「学びが横に広がる」、1on1は「学びが縦に深まる」イメージです。グループは発言の機会こそ限られますが、他者のセッションを観察したり異なる視点に触れることで、多様なスタイルや自分の盲点を発見できる場。一方1on1はより親密な対話の中で、自分の強みやスタイルの開発だけでなく、セッションに影響を与えている信念や価値観の探求など、より“Being”の成長が進む場だと感じています。
メンターコーチングの相場
メンターコーチングの相場は1時間あたり16,500円〜35,000円ほど。価格で選ぶ方もいますが、「値段=質」というわけでもありません。
ICFはコア・コンピテンシーの中で「必要に応じてメンターコーチやスーパーバイザーの助けを得ること(Competency 2: Coaching Mindset)」を求めています。コーチとしての成長は10時間で完結するものではありませんから、資格取得後も継続して学べるよう、利用しやすい価格にしているメンターコーチも多くいます。
ただコーチ自身にコーチをつけつつ、さらにメンターコーチもとなると経済的に負担になる場合もあるでしょう。そんな時は、通常のコーチングとメンターコーチングの両方を提供できるコーチをつけるのも一つの方法です。私自身も、必要に応じてどちらの形式にも切り替えられるスタイルをとっています。
選び方のポイント①メンターコーチの背景(資格やトレーニング)
選び方のポイント一つ目は、メンターコーチの持つ資格や受けているトレーニングです。
基本的には自分が受けようとしている資格と同等、または上位の資格を持ったコーチからメンターコーチングを受ける必要があります。
| 申請する資格 | メンターコーチの資格 |
|---|---|
| ACC(Asscociate Certified Coach) | ACC/PCC/MCC |
| PCC(Professional Certified Coach) | PCC/MCC |
| MCC(Master Certified Coach) | MCC |
ACC資格を持つメンターコーチを付ける場合のみ、そのコーチがACCを一度更新している(=ACC資格を3年以上保持している)という条件が追加であります。
私の場合PCCを申請する時には、時期をずらしてPCCのコーチとMCCのコーチ、両方についていただいてました。「ひとつ上の資格レベルの視座に触れる」ことで、コーチとしての成長が大きく進む感覚があったからです。。
「PCCマーカーアセッサートレーニング」は、資格申請の際の録音の審査をするアセッサーになるためのトレーニング。ICF本部が提供しています。メンターコーチの条件として必須ではありませんが、「ICFの審査基準を正しく理解している」という点で、考慮しても良いポイントかもしれません。
資格取得を目指していると、「クライアントの声のトーンに言及しないと落ちるらしい」など、さまざまな噂が耳に入ってくることがあります。ただ実際にアセッサーをしている私としては、「ん?ICFはそんな評価の仕方はしないけど…?」なんて話もチラホラ。
もしあなたが「ICFのコーチングの世界観をより理解したい」「コアコンピテンシーやマーカーの意味をしっかりと理解した上でレベルアップしたい」と願うならば、メンターコーチがこのトレーニングを修了しているかどうかは、一つの指標になるでしょう。
選び方のポイント②メンターコーチのコーチングについての考え方
二つ目のポイントは、メンターコーチの「コーチングについての考え方(Coaching Philosophy)」です。メンターコーチはコーチの「ロールモデル」の一つとなる存在。コーチングをどのように解釈しているのか、セッションにおいてどんなことを大切にしているのかを理解しておくことで、よりあなたに合った納得感のあるサポートを受けられます。
例えば「コーチングは創造力や決断力を育み、成長を支援するためのもの」と捉えているコーチと、「コーチングは目標をスピード感をもって達成するためのもの」と捉えているコーチでは、セッションのアプローチそのものが大きく変わってくるでしょう。
メンターコーチングは単なる技術指導ではなく、コーチとしての在り方や価値観、判断の基準などにも触れながら成長していくプロセスです。メンターコーチのコーチング観がそのままフィードバックなどにも表れますから、セッション中に違和感を感じることがないよう、事前に確認しておくことが大切です。
選び方のポイント③メンターコーチのメンターコーチングについての考え方
三つ目のポイントは、メンターコーチの「メンターコーチングについての考え方(Mentor Coaching Philosophy)」です。私の知る限り、メンターコーチングをどう捉えているかはコーチによってかなり差があると感じています。
例えば「資格取得のプロセスを通して真の成長を支援するサポート」を大切にしているメンターコーチもいれば、「資格を最短で取得するサポート」を大切にしているメンターコーチもいます。前者は「フィードバックをためらうとき、あなたに何が起きているか」「なぜこのコンピテンシーは重要なのか」といった、探索型のアプローチになりやすいでしょう。一方、後者は「どこを直せば受かるのか」といった改善型のアプローチになることが多いかもしれません。
私の場合は、「自分のコーチとしての強みやスタイル」を開発してくれるメンターコーチを選びましたし、自分もメンターコーチとして同様のスタンスをとっています。あなたが求めているサポートと合うメンターコーチングを受けられるよう、事前に確認しておきたい大切なポイントです。
選び方のポイント④メンターコーチのスタイル
四つ目のポイントは スタイル、つまりメンターコーチングでどのようにフィードバックを行い、どのようにプロセスを進めていくかという点です。
- コーチの行動の意図を尋ね、「在り方」に焦点を当てた対話を行う
- 「あなたがクライアントだったら?」という視点から、コーチとクライアントの関係性やその影響を扱う
- ロールプレイでコンピテンシーを体現し、体験を通して学んでもらう
- マーカーをチェックリストのように使い、行動ベースの改善点を伝える
などなど、ICFコンピテンシーを扱う点は共通でも、メンターコーチによって多様なアプローチがあります。もちろん複数のスタイルを組み合わせている方もいますので、実際に依頼する前に確認してみるといいでしょう。
※なおICFでは、マーカーは評価基準ではあるものの、単純なチェックリストとして用いることは推奨されていません。そのため、どのような意図でマーカーを扱っているのかも含めて確認してみるとよいでしょう。
選び方のポイント⑤メンターコーチとの相性
通常のコーチング同様、メンターコーチングにおいても「相性」は最も重要な要素です。例え経験が多く人気があるメンターコーチでも、あなたと合わなければ意味がありません。プロフィールなど事前情報だけでは分からない部分もあるので、可能であれば「3人以上の方から体験セッションを受ける」ことを、私はお勧めしています。
その中で相手のコーチングについての考え方やメンターコーチングの進め方について尋ねたり、また可能であればメンターコーチングのミニセッションを受けてみて、体感した上で判断するとといいのではないかと思います。
ICF資格取得のプロセスは思った以上に長期になることもあり、どんなメンターコーチとその旅路を歩むかは、プロセスそのものの体験を大きく変えます。ぜひ自分に合ったメンターコーチを見つけてみてください!


