「My point of view」は、旅先で出会ったことや日々の生活で気づいたことなど、私の世界の捉え方をエッセイ調で綴ったシリーズです。
石灰質で作られた入江「カランク」。濃い深海のような青と、晴れ空のような青の対比が面白い景色だ。
そんなカランクを見に行こうとマルセイユに行ったら、駅から港までの道で完全に迷子になった。南フランスの明るい街のイメージとは裏腹に、犯罪もとっても多いマルセイユ。道のど真ん中で地図を広げるのは、ちょっと気がひける。
通りかかった優しそうな年配の女性を呼び止める。
「すいませんマダム。マルセイユのかたですか?」
迷子になってしまったんだけど港に行きたいの、と言うと、丁寧に行き方を教えてくれた。
「この道を歩いてまっすぐよ。メトロ(地下鉄)は…ややこしいか。トラム(路面電車)に乗ってもいいけど、それならここで降りて歩くといいわ」
”Merci, bon journee Madame!(ありがとう、素敵な1日を、マダム!) “
”Merci, vous aussi!(ありがとう、あなたもね!)”
フランスは別れ際がいつも気持ちいい。電車で隣に乗り合わせたときも、ツーリストオフィスで道を尋ねても、お店に入って商品を買っても買わなくても。
”Au revoir, bon journee!(さよなら、素敵な1日を)”
と言ってお別れする。しかも笑顔で視線を合わせて。多分もう2度と会うことのないひとからの言葉に、フワリと柔らかい気持ちになるから、知ってるひとからの「素敵な1日を」はもっと嬉しい。
別れるときに気持ちのいい人になりたい。
日本にいるとつい照れ臭くて、視線を合わせることをためらったりするけど、言葉以外のコミュニケーションって本当に素敵だと、フランスで改めて感じた。
言葉は嘘をつけるけど、視線は嘘をつけないから。
「あなたにとって、素敵な一日になりますように」
そんな思いを視線に込めて。