京の「川床」と、鞍馬山の「天狗」
京都の夏の風物詩と言えば「川床」。わたしが数年前に働いていたA社も鴨川沿いにレストランがあり、夜は100席近い客席が二回転するなど、一年でも一番の繁忙期でした。通常は他店からヘルプを呼んだり人員を増やすのですが、8月のある一日どうしても人が見つからなくて、各セクションに一人ずつという最少人数で営業をやることになった日のこと。
キッチンにもサービスにも、変な緊張感が漂っていた夜営業のオープン前。チームの長であるシェフが急に、「おい、鞍馬山の天狗って信じるか?」と皆に話をふったのです。営業準備で忙しくしていた全員が「この人、急に何言いだすの?」と一瞬時が止まったものの、普段からノリの良い若手の男の子が「○○さんは天狗見たことあるんすか?」と続き、結局全員で天狗話に爆笑することになりました。
時間にしてほんの数分。文字通り「氷が解けていく」ような、いい意味でリラックスした雰囲気が出来て、結局四人でその夜の営業を乗り切れたんですね。後でシェフに「なぜあんな一見空気が読めない話をしたのか」コッソリ尋ねてみると、「緊張してると良いパフォーマンスはできんやろ」という返答が。つまり彼は、敢えて雑談を振ったのでした。
「雑談はチームビルディングの一環」というのが、このチームの共通認識。国内外の様々なホテルやレストランで働いてきましたが、この時のチームは間違いなく一番パフォーマンスが高いチームだったように感じています。質とスピードを兼ね備え、かつ働いていて楽しい、という三拍子揃ったチームでした。
「雑談」の無いチームに起きていること
一方で「雑談がまったく無い」、そんな組織でも働いたことがあります。B社では雑談はどちらかというと「生産性の無い時間」という捉え方をされていて、分刻みのスケジュールをスタッフ全員に組むことで、雑談の余白を与えないようなシステムになっていました。
職場には常に緊張感が漂っていますし、雑談をする人が現れると全員から冷たい視線と「話さず仕事に集中せよ」という無言の圧が投げかけられます。一分一秒を争う、そんな空気感の中で「失敗してはいけない」と気を張り詰めながら仕事しているので、変な力が入りサービス業としてはあり得ない失敗やミスが続くこともありました。
会社として成り立っている訳なので、もちろんそれも一つのやり方なのですが、少々悲壮な顔をして働いているスタッフたちを見ているのは正直わたしには苦痛でした。職場が安全であると感じられないと、人は自分を守るように動くものです。ミスをごまかしたり、失敗の責任を誰かのせいにする、そんなことも起きていました。
「雑談」がチームにもたらすもの
冒頭のA社はわたしが働いていた当時、「やりがいのある会社ランキング(GPTW)」の国内ランキングで上位に入っていた会社です。いわゆる「強いチーム」と呼ばれる組織において、雑談が「チームビルディングのためのツール」のひとつとして根付いているというのは、共通しているのではないでしょうか。
「雑談」には様々なメリットがあると言われていますが、主に以下の4つに収束できると思います。
上記の4つの要素は、強いチームを創る上で欠かせない「心理的安全性」にも繋がります。人は職場で「安心できる」と感じていれば、その能力を最大限に発揮しやすくなり、また反対に「安心できない」と感じれば自分を守ることにエネルギーを使うようになるからです。
「雑談」ができるチームの鍵を握るのは誰か
「雑談」は休憩時など仕事以外の時間での会話だけでなく、面談や会議の冒頭の「アイスブレイク」もまたこれにあたります。天気の話でも最近のトピックでも何でもいいのですが、雑談を数分挟んでから本題に入るほうが脳もクリエイティブな良い状態で始められます。
反対に雑談抜きで「じゃあ今日のアジェンダは~」と唐突に入っていくと、参加者は緊張したままになることが多いもの。アイデアや意見を求めても無難な回答が返ってきたり、発言に時間がかかったりする時には、「場の空気感」はどうなっているかチェックする必要があるかもしれません。
もちろん普段からコミュニケーションをとっているチームや上司部下の場合はそれもありでしょうが、プロジェクトごとに集まるメンバーでの会議などでは特に、「アイスブレイク」は欠かせないツールかもしれませんね。
「雑談」ができるチームになるかどうか、その鍵を握っているのはチームのリーダーです。リーダーが口火を切ればチームはそれに続きやすくなりますし、「このチームではチームビルディングの手段としての雑談はOK」と認識することも出来ます。
もちろん氷がしっかり解けたのが分かったら、「さあアイスブレイクはここまでにして」と場をコントロールするのもまた、リーダーの役割です。
「雑談」のチカラ、なかなか侮れませんよね。
あなたはチームにおける「雑談」を、どのように捉えていますか?