「やりたいことが分からない問題」はIkigaiチャートで説明できるかもしれない

仕事柄、「やりたいことが分からない」という人に時々お会いします。特に2020年のコロナ以降、自分の人生をどう生きていくのかを真剣に考える中で「自分のやりたいことってなんだろう?」という問いを持った人、多いと思うんですよね。

コーチ仲間と話してても、キャリコンをしている友人たちと話してても、年代を問わずこの「やりたいことが分からない問題」って中々に深刻で、私たちはどうやってサポートできるんだろうって話をよくしています。

深刻、とは言いつつ、実は一定数の方は自分の「やりたいこと」に向かって動けていたりもする。じゃあ、この「やりたいことが分かっててそれを実現していける人」と、「やりたいことが分からないの沼にハマっちゃう人」って一体何が違うんだろう?と。

色々話していく中で、「Ikigaiチャート」を使うと少し見えやすくなるかもということが分かってきたので、この記事ではその内容を詳しく書いています。

「やりたいこと」の定義には複数ある?

少し前のことなのですが、友人とこんなやり取りをしたんです。

わたし:「”趣味は何?”って聞かれたらなんて答える?」
友人:「趣味は無い」
わたし:「え、でも休みの日とか夜とか、何してるん?」
友人:「Netflixで動画見るとか、今ハマってるのはアメリカの刑事モノかな」
わたし:「それって趣味じゃないの?やってて楽しくない?」
友人:「いや楽しいけど、趣味ではないかな」
わたし:「○○にとっての趣味って、どんなイメージなん?」
友人:「なんやろ、もっとこう、情熱を持ってやってるとか、何時間でも出来るとか。熱量が違う気がする。そういうのは無い」

この会話、個人的にすごく衝撃で。というのも私にとって趣味とはシンプルに「自分が好きなこと」であって、旅、読書、テニス、英会話、等々、めちゃくちゃたくさんあるんですよ。
ただ旅行は年1,2回かもしれないし、読書も気が向いた時だし、友人が言うような「熱量」があるかというと、そうでも無いかなと。世の中には年中旅してる人もいれば、年間数百冊本読む人もいますもんね。

で、この会話の後にすごくしっくり来たのが、「やりたいこと」の定義もまた人それぞれに違っているんだなあと。すごくシンプルな言葉で、シンプルであるがゆえに見落としていたように思うんですけど、自分の「やりたいこと」の定義を明確にすることが、そもそものスタート地点ではないかと。

「やりたいこと」をIkigaiチャートで分解する

「やりたいこと」の定義は人それぞれなのですが、実際に「やりたいことが分からない」という色んな方のお話を聞いているといくつかのパターンがあるように感じています。で、そのパターンを説明するのに「Ikigaiチャート」がかなりしっくりくるので、ここからは図を見ながら書いてみます。

Ikigaiチャートとは?

「Ikigai」とは日本で暮らしたスペイン人の著者が、日本の「生き甲斐」という概念を2017年出版の書籍「Ikigai: The Japanese Secret to a Long and Happy Life」の中で紹介したもの。世界的にベストセラーになり、2018年頃には日本にも逆輸入され、「好きなこと」「得意なこと」「稼げること」「世界が求めていること」で構成される「Ikigaiチャート」はちょっとしたブームにもなりました。
(Coaching Labo LIBERTEでも2018年から2020年にかけて、「Ikigai」を使ったワークショップを複数回開催していて、すぐ満席になるような人気のテーマだったと記憶しています)

「あなたにとってやりたいことの定義って何ですか?」と尋ねた時に返ってくる答えには、大まかに以下の4つのパターンがあります。

  • 「自分の得意なことで、やってて楽しいことです」(得意なこと×好きなこと
  • 「自分の強みを活かして、誰かに喜ばれることです」(得意なこと×世界が求めていること
  • 「自分がワクワクすることで、人の役に立つことです」(好きなこと×世界が求めていること
  • 「自分が好きなことで、今までの経験が活かせて、誰かに貢献出来ることです」(好きなこと×得意なこと×世界が求めていること

因みに最初から口に出す人は少ないですが、転職や副業、起業なんかの話をしている場合は特に、「かつ会社員時代のように(もしくはそれ以上に)お金になること」(稼げること)という条件も、暗に含まれていたりします。

私は言いたい。
そんなの、本当にあります??

ド直球な言い方になってゴメンナサイ。もちろん「現在進行中でやっていることがIkigaiチャートにピッタリはまるんですよ」というケースはあると思うんですよ、実際。言われてみれば、正にIkigaiど真ん中かもっていうの。ただそれって、やり始める前からそうだったのかな?と。

理想の「やりたいこと」の落とし穴

理想を高く持つことは、自分自身を高めより成長していくためには、とっても大切なことです。一方で、高すぎる理想のせいで、身動きが取れなくなるとか、最初の一歩が踏み出せないのだとしたら、それって本末転倒だと思うのです。

人の脳の性質を考えるとき、Ikigaiチャートでいうとても狭い枠、なんならピンポイントで真ん中の「Ikigai」にフィットする何かを最初から見つけようとするのって中々にハードルが高い。

なぜなら、脳は一度に一つの場所にしか焦点を当てることが出来ないから。二つの問いを同時に投げかけられると、脳は混乱してしまいます。例えば「人生で一番自分の強みが活かせた、ワクワクした体験は何ですか?」と問われた場合、人はまず自分の強みを活かせた体験について思い出し、その中からワクワクした体験をフィルターにかけます。

自分では「私のやりたいことってなんだろう?」と問うているつもりでも、実際には「自分が好きで、得意なことってなんだろう?」が暗に含まれているとしたら、脳は上手く考えられないかも。

まずは自分が「やりたいこと」としてどんな定義をおいているのか、明確にすること。それから、問いは一度に一つずつ。

やりたいことが分かっている人の「やりたいこと」とは?

好きなことが見つけるまで探し続けてください。止まってはいけない。
ースティーブ・ジョブズ

Steve Jobs’ 2005 Stanford Commencement Address」Stanford / Youtube

実はやりたいことが分からない人のように、やりたいことが分かっている人の「やりたいこと」の定義にも、ある一つのパターンがあるように感じます。

それはIkigaiチャートでいう「好きなことから全てが始まっているということ。周りのやりたいことをどんどんやっているコーチ仲間とか自分自身の体験から言っても、やりたい理由って大抵「だって実現出来たら面白そう!」で、まあまあノリとしては軽い。

言葉を変えると、最初のアクションを起こす時点で、「やろうとしていること」が自分が得意なことかどうか、稼げるのかどうか、誰かの役に立つかどうか、そこまで気になってないんです。時間をかけてその「好きなこと」を追求していった結果、得意なことになっていたとか、お金がそれなりに稼げるようになったとか、なんやかんや色々な人に喜ばれた、みたいなことは多いかもしれないですけど。

かの有名なスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学でのスピーチの中で「(僕の)やりたいこと」に関する言及があるんですが、それは英語では「What I love to do」なんですね。直訳すると「やるのが好きなこと」。

好きなことってほっといてもやっちゃうし、努力とか必要ないし(周りからは努力に見えていても)、自分自身の16年の職人人生を振り返ってみても、壁には色々ぶつかりますけどなんだかんだ続けられたりするものだと思ってます。「好き」の気持ちがガソリンになってくれる

と、まあこういう話をすると「なんで私にはそんなに夢中になれることが何も無いんだろう?(涙)」なんて声が聞こえてきそうですが、この「なぜ(Why)+否定形の質問」って要注意!なのです。なぜかというと、このスタイルの質問は言い訳や自己否定を引き出しやすいから。

コーチングではよく「問いの質が答えの質を決める」と言われます。ですから「なぜ、私はやりたいことが見つからないんだろう?」という問いがあなたをどこにも導けないなら、「やりたいことが分かっている人には何があるんだろう?」という「何が(What)+肯定形の質問」に変えてみると、視点が変わりやすいのです。

ここからは「やりたいことが分からない人」と「やりたいことが分かっている人」の傾向性の違いを3つあげていきます。もちろんすべての人に当てはまる訳ではありませんが、自分の現在地を知ると共に、どのようなマインドを持っているとより前に進みやすくなるかのヒントにしてみてください。

子供の頃の夢を叶えて16年パティシエをした私が考える「好きなことで生きていく」とは?

両者の違い①頭の中で見つけようとする VS 体験から見つけようとする

「やりたいことが分からない」の沼にハマりやすい人の傾向として、自分のやりたいことを「頭の中で見つけようとする」があるかなと思います。
Ikigaiチャートでいう「情熱」や「使命」、なんなら全ての4つが重なる部分にピッタリはまる何かが、頭の中で見つかったら動こうと考えている。誰かにそれがあるべき「やりたいこと」だとでも、言われたのかな。

例えるなら、一度もやったことの無い野球とサッカーとテニスの情報だけをネット上で眺めて、自分が人生かけてやりたいスポーツを探そうとしている状態。いや、それどう考えたって無理があるでしょう。

対してやりたいことが分かっている人は、まず試合をスタジアムまで見に行くとか、体験レッスンに行ってみるとか、地域のサークルを探して参加するとか、「とにかく触れてみる」ということを大切にしている気がします。

「知識」と「体験」の間には大きな隔たりがありますから、どれだけ「野球は精神力を鍛えるのに良い!」「テニスは痩せられる!」とか言う人がいても、まったく自分の好みではないこともある訳で。やりたいことが分かっている人は、世間の評価や定義よりも自分自身がどう感じるかを大切にしていて、「体験から見つけようとする」というマインドが備わってるように思います。

自分で実際に触ってみて、フィーリングを確認して、違ったら手放して次に行く。そんな行動への軽やかさがあるように感じるのです。

両者の違い②失敗を極力避けたい VS 失敗込みでチャレンジする

「頭の中で見つけようとする」の向こうにある動機はなんなのかなーと考えてみると、「失敗を避けたい」が大きいように感じます。失敗にも色々あると思いますが、例えば「時間がムダになる」「お金がムダになる」「誰かに迷惑をかける」などを極力避けたいという願い。

やりたいことが分かっている人を見ていると、失敗を面白がっているような人が多いというか、失敗込みで積極的にチャレンジすることに重点を置いている気がします。むしろ失敗の定義自体がちょっと違っていて、成長の好機をムダにすることや、他者に気を遣って自分の願う道を選ばないことを「失敗」と定義しているような印象も。

失敗を気にせずどんどんチャレンジ出来ることのメリットは、なんと言ってもフィードバックの量が圧倒的に増えること。興味のある様々なことに触れる中で、「むむ、これじゃ無かった」とか「ああ、やっぱ好きだわ~」とか、自分が何を好んで、何を本当に求めているかが明確になっていく。

コンフォートゾーンを越える成長の4つの領域」の中でも書いていますが、新しいことにチャレンジしている=自分のコンフォートゾーンが拡がっていくことを意味します。結果として安心できる領域が増えて、何かと最初の一歩が踏み出しやすくなるし、「自分に響くものを選択する力」も育っていくのかなと。

両者の違い③今ある世界だけで考える VS 外側の世界に目を向ける

もし、自分のやりたいことを実現するために必要なものが、今手元に無かったらあなたはどうしますか?

・「手元に無いから出来ない」と諦める
・「どうしたら手に入れられるんだろう?」と新たな手段を考え始める。

やりたいことが分からない人の傾向として、今手元にあるものだけで考える思考のクセがあるかもしれません。例えば「時間がないから出来ない」「スキルが足りないから無理」「手伝ってくれそうな人はいない」など。もちろん現実的であることが役立つ場面もありますが、もしかしたら探しているそのものは、いくらでも外の世界から自分の世界に招き入れられるものかも。

やりたいことが分かっている人は、もし必要なものが今手元に無くても、「どうしたら時間を生み出せるか?」「スキルを身につけるには何をすればいいか?」「手伝ってくれそうな人に出会うには?」と新たな選択肢について考え始めます。自分がまだ知らない世界にも、目を向け続けているのです。

ある意味、自分自身の可能性をとても信じていると言えるかもしれません。「どこかから手に入れる手段はあるはずだ」と信じているわけですから。

「やりたいこと」を実現するために、コーチを活用するなら

この「やりたいこと」に関するテーマはコーチングの中でもよく登場するのですが、プロセスを効果的に進めるためにコーチを活用するとしたら、二つの方法があるかなと思います。

ひとつ目は、「やりたいこと」が分からなくて「そもそも自分の好きなことって何なのか、得意なことって何なのか」という自己理解のフェーズに、第三者の視点や効果的な質問が欲しい場合。特に得意なことや強みは、自分では当たり前すぎて見えにくい部分なので、他者のフィードバックはかなり役に立つかなと。

二つ目は自分の「やりたいこと」が分かっていて、それを実現していくフェーズ。個人的には、実は本当にやりたいことの一つや二つは心の奥底に眠っていて、様々な理由から諦めているだけのケースは意外に多いと感じています。

どんな状態を目指すのか、どんなオプションがあるか、どこから始めるかなど具体的なプランを作ったり、前に進むために必要な自己基盤を整えたり、ということはコーチのサポートがあるとより軽やかに進められるかもしれません。

コーチはそれぞれ自身の得意な分野があるので「やりたいことがある人をサポートします!」というスタンスの人、「あなたのやりたいこと探しを手伝います!」というスタンスの方、様々です。なので、自分の現在地やニーズに合わせて、必要なコーチをつけるのが大切ですね。

最後に:Ikigaiチャートについて知られていないこと

将来を見据えて点と点を繋ぐことはできません。後になって振り返ってみないことには、繋ぎようがないのです。だから将来、どうにかして点と点が繋がると信じなければなりません。
ースティーブ・ジョブズ

Steve Jobs’ 2005 Stanford Commencement Address」Stanford / Youtube

Ikigaiチャートは、本そのものよりも、図式が広く出回っており、どのような経緯でこのチャートが出来たかを知っている人は決して多くは無いように感じます。

書籍「Ikigai」の著者は「日本人がなぜこんなにも長寿であるのか」に関心を持ち、沖縄のとある村でインタビューを行いました。仕事を引退した後、余生を楽しそうに暮らしているおじいとおばあの話から、このIkigaiチャートを生み出したのです。100才を越えた人たちを、あんなにも元気に活き活きとさせているものは何だろうかと。

その結果、彼らが皆、「自分がやってて楽しくて、自分にやれることで、ちょっとお金にもなって、誰かに感謝されることをやっている」ということが分かったんです。

本の冒頭にはこんなことも書かれています。
フランス人の哲学者にとって、”raison d’être(存在の理由)”とも訳されるこの概念は、ここ日本では”朝起きる理由”である。”Ikigai”を見つけるのはとても時間のかかることで、忍耐力が必要だ」。

「本当にこれが自分のやりたいことだった」とか「生き甲斐なのだ」とか、心からそう思えるのって、もしかしたら90才とか100才とかになって人生を振り返った時なのかもしれないですね。

ーThe main thing in life is to know your mind.
人生で一番大切なことは、自分の心を知ることさ。(スナフキン)

メルマガ「Inspire Your Life」

人生をインスパイアするストーリーやアイテム、イベントの最新開催情報などをお届けします。

16年やっていたパティシエからコーチに転職した私が考える「やりたいことの見つけ方」について【前編】 コーチングとは コーチングって何?【2024年最新版】