「コーチングと禅のあいだ」は、海外生活の経験から日本文化にいっそう興味を持つようになった私が、コーチングの実践と禅の思想を重ね合わせながら探求するシリーズです。
毎回、禅にまつわるキーワードをもとに、コーチの在り方を考えていきます。
今回のテーマは「色即是空(しきそくぜくう)」です。
禅や仏教には多様な解釈があります。この記事では、京都花園大学の講義「禅とこころ」で紹介された表現を中心に、私自身の視点も交えてまとめています。禅の研究者としてではなく、コーチングの学びの一端として書いていますので、そんな視点もあるんだなと、受け取ってもらえたら嬉しいです。
色即是空って何?――不変のものは存在しない
「色即是空(しきそくぜくう)」は、仏教で唱える般若心経にも登場する、有名なフレーズです。
「色とはすなわち空である」ということなのですが、まずは仏教における「色」と「空」をザックリ説明しましょう。
色
この世に存在する全てのもの。物理的なもの以外に現象や思考、感情なども含む。
空
実体がないこと。因果関係によって生まれ、変化し、消滅するを繰り返し、不変ではないこと。
つまり色即是空とは、とてもシンプルに言うと、「この世にあるすべてのものは、変わり続けるものであり、不変的なものは何ひとつない」ということになります。
世を儚むお坊様のつぶやきのようにも聞こえますが、これ実は悲観的な意味合いではないのです。
「常に変わり続ける」のが本質であるからこそ、
ー執着しても意味はない
ーこの一瞬に集中する
ー今ここにあるものに感謝する
といった、禅の教えにも繋がっていくのですね。
変わりゆくクライアントに、コーチはどう向き合うか
「色即是空」の概念をコーチングの文脈に置き換えると、究極「本当の自分なんてものは存在しない」という考えに辿りつきます。(「本当の自分ってなんだろう?」と絶賛探求中の方には、ちょっと残念なお知らせですね、涙)
ただ、私たち自身でさえも常に変わり続け存在であるならば、そこには「無限の可能性」があるということではないでしょうか。昨日の自分は今日の自分ではなく、今日の自分は明日の自分ではないのですから。
クライアントの大事にしている価値感も、長年持ち続けているビリーフでさえも、変わるかもしれない。そうするとコーチは、「この人はこういう人だ」と決めつけるのではなく、「この人は今はこうでも、どんどん変わる可能性を持っている」と、相手のポテンシャルを信じるまなざしを持てるようになります。
私たちコーチの大切な役割は、「すべては常に変わっていく」ということを念頭におきながら、クライアントが「今の自分にとって最適な答え」を見つけるのをサポートしていくことのように感じます。
時には、クライアントの長年のこだわりに対して「それは”今”のあなたにとって、本当に必要なものですか?」と、新たな視点を促す勇気も必要になるでしょう。「新しく取り入れたい”自分”は、どんな自分ですか?」と、未知の自分と出会えるようなアプローチも、大切になるでしょう。
こういった「自己変容」のプロセスをサポートする上では、何よりもコーチ自身が、変わりゆく自分に気づいていること、受容していることが、助けになったりするのかなと思うのです。
――あなたは、どんな「変わりゆく自分」と、出会ってみたいですか?

大原亜希
ICF認定PCCコーチ
強みや価値観をヒントに、ビジネスパーソンやクリエイターの「自分らしく働く&生きる」をサポート。大人の自由研究のように、正解のない問いを一緒に探求する対話をしています。


