「コーチとして起業してみたい」という相談を時々いただくので、起業を考えている方に向けて私個人の視点をここに書いておきます。とはいっても私は起業の専門家ではありませんので、どうやって起業するかというよりも、知っておきたい情報やマインドについてまとめています。
全ての方に当てはまるとは思いませんが、視点の一つとして参考にしていただければと思います。
「起業」そのものは、簡単である
このウェブサイトの他のページでも何度か書いているのですが、「コーチとして起業する」ことそのものは、全く難しくありません。税務署に「開業届」を出せば、明日にでも起業できてしまいます。ググっていただければすぐに分かりますが、開業届に記入する内容もそんなに複雑ではなく、私自身も起業当初は拍子抜けしたぐらいです。
問題は起業したその後で、多くの方が本当に抱いている疑問は「果たしてコーチとしての仕事で食べていけるのか?」「コーチとして食べていくにはどうしたらいいのか?」なのではないでしょうか?
コーチング業界の現状
コーチングに限らず、起業をするのであればまず、その業界の実情を知っておいて損はありません。あなたは、「コーチとして起業してそこからの収入だけで生計が成り立ってるコーチ」、全体の何%いると思いますか?
私がコーチングを学び始めた2018年のお話をシェアすると、当時専業のプロコーチとしてやっていけている人は全体の2%だと言われていました。今はコロナ下でコーチングを学べるスクールが急激に増えて、コーチの数もめちゃめちゃ増えているので、さらに割合は減っているのではないかと想像します。
つまり大抵のコーチは、掛け持ちで他の仕事もやっていたり、コーチ業だけでは生計が成り立っていません。コーチング業界はいわゆる「レッドオーシャン」、とても競争の激しい市場の一つだと言えると思います。私より何年も前に起業されているコーチの方々も口をそろえておっしゃるのが「コーチ業で食べていくのはそんなに甘くない」と。
重要なのは、このコーチング業界の現状を知った上で、「それでも自分はチャレンジする」と覚悟を決められるかどうかだと思うのです。3年間貯金を食い潰すことになるかもしれませんし、生きていくためにアルバイトをしなくてはいけないかもしれません。
なので自身の覚悟の度合いを知るために、自分に問いかけてみてもいいかもしれません。
ーそれでもやってみたいと思えるぐらいに、「起業」はあなたにとって大切なことでしょうか?
なぜこんなにも「レッドオーシャン」なのか
そもそも、なぜコーチング業界がこんなにもレッドオーシャン化しているかというと、少なくとも2つの理由があるかなと思っています。
①参入障壁が低い
コーチングは特別な資格が必要なわけでも無く、またパソコン一つでセッションが出来ることから初期投資がほぼ必要ありません。もちろんコーチングスクールに通うお金はいりますが、こちらも数万円から100万円越えまでピンキリなのが現状。
気軽に始められるように見えますし、かつ「自由な働き方が出来る」などのメリットが魅力的に見えるので(参入したものの稼げていないという新米コーチをターゲットにしたビジネスの謳い文句は大抵コレです)、けっこう軽い気持ちで入って来られる人が多い気がします。
②需要と供給のバランスが悪い
コーチとして活動する上では、商品である自分自身を良い状態に保つ必要がありますから、プロコーチは自分にもコーチをつけ自己研鑽や成長を欠かさないのが一般的です。「プロコーチとして活動する=自分にもコーチをつけている」ならば、コーチング業界の中でも需要と供給のバランスはある程度取れます。
けれども近年は「自分はコーチをつけていないが、コーチングを提供したい」という方が、かなり増えている印象を受けます。「コーチングを受けたい人」よりも「コーチングを提供したい人」のほうが圧倒的に上回っている、というのがリアルなところだと思います。
もちろん、中にはビジネスが軌道に乗って収入に余裕が出てきたら、コーチをつけようという方もいるかもしれません。たしかに開始当初ってなかなか思うようには収入に繋がらないので、気持ちはよく分かります。
ただわたし自身の経験からお話しすると、ビジネスが軌道に乗るまでの期間にコーチをつけていることの価値は、正直計り知れません。どんな戦略や値段でやっていくのかとか、練習とは違う有料クライアントとのセッションでぶつかる壁とか、自己基盤をとにかく試されるようなシチュエーションがジェットコースターのようにやってきますから。
上記のように、様々な理由から今後もコーチング業界のレッドオーシャン状態は続いていくだろうと思います。起業という道を選ぶ場合には、差別化や自分にしか出せない価値の創造は、これまで以上に重要かもしれません。
起業塾や有料広告は必要?
コーチング業界でのマーケティングが難しいとなってくると、中には「起業塾に通ったほうが良いの?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。これに関しては本当に人それぞれかなと思っています。
私はたまたま起業塾などのコンサル業に精通している友人がいて、「”塾生が初月から600万達成!”とか宣伝してるのって、実際にはどれぐらいの割合で成功するの?」と尋ねたところ、「全体の1%か、よくて2%かな」と聞いたので、それならコーチとしてのスキルを磨くことにお金を使いたいと思い、起業塾には一切通っていません。
でも、もし「私はその1%または2%の成功者になる!」という強いコミットがある方なら、起業塾を上手く活用できるのかもしれません。
またSNSでの有料広告以外にも、コーチとして起業すると結構有名な女性誌などから「(有料で)掲載しませんか?」という有料広告のお誘いがやってきたりします。私はお金を払って「有名な〇〇誌に掲載されました!」と謳うことにあまり魅力を感じないので、毎年やってくる営業をお断りしていますが、人によってはそこに価値を見出せる方ももちろんいるでしょう。
コーチとして起業するとなると「コーチ力」以外にも、「マーケティング力」が必要になってくるのは否めません。これは、ただ美味しい料理を作っていればお客様がやってくるわけではないのと同じです。
昔は起業塾に通うことが当たり前だった時代もあると思いますが、今はYoutubeやブログ等で価値ある情報を発信されているコンサルの方も多くおり、自力でもそれなりの情報を得ることは可能です。また、そのアプローチには本当に人の数だけやり方がありますので、色々なことを実験しながら自分に合うスタイルを構築することが大切なのかなと思います。
コーチングを活かす様々な方法
そもそも「コーチとして起業したい」という発想がどこから生まれたのかを皆さんに尋ねると、「せっかく学んだコーチングを活かしたい」という台詞をよく聞きます。コーチングスクールを卒業した後、コーチングを活かす方法として思い浮かべることの一つに「起業」や「副業」があるのでしょう。
私はこの「コーチングを活かす」という言葉は本当に人それぞれの捉え方があると感じていて、特にアシスタントとしてコーチングクラスでお会いする受講生の方々を見ていると、意外にも多くの方が「今いる場所で上手く活用する」ことを目指しているようにも見えるんですね。
例えば
- 職場で部下の主体性やモチベーションを引き出す人材育成のために活かす
- 職場で上司や同僚との関係改善のために活かす
- 職場でより強い、自走できる組織づくり/運営のために活かす
- 職場に1on1セッションを導入して社内コーチとして活かす
- 職場でコーチングの研修を行い、対話のある文化をつくるために活かす
- 小中高校で、生徒の主体性や創造力を引き出すために活かす
- 小中高校で自走できる、より活発なクラス運営に活かす
- フリーランスで顧客や取引先との信頼関係構築のために活かす
- 親子関係の改善のために活かす
- 自分の人生をより主体的に生きるために活かす(セルフコーチング)
因みに社内で活用されている方は、ご自身で上司や人事部などにかけあって、ボトムアップで社内にコーチングを広めていかれている方もたくさんいらっしゃいます。中にはそこから「社内コーチ」としての新規ポジションを開拓していく方も。
私の場合はそもそもコーチングを学び始めたのが、既に仕事を辞めてフリーになった時期だったので、そのまま起業という道を選びました。ただ、もし勤めていた時にスクールに通って今と同じぐらいのコーチ力があったなら、間違いなく社内で活動することにチャレンジしただろうと思います。
自分のチームがありましたし、働いている人も会社も好きな職場が多かったので、その環境をより良くするために活かせるなら面白かっただろうなと。もちろん収入面でも安定してますしね。
コーチングの本質をしっかり学ぶと、ただセッションが出来るようになるだけではなく、自分のコミュニケーションのスタイルそのものがアップデートされます。何か特別なことをしていなくても、「日々の生活でコーチングを実践する」こと自体が、コーチングを活かしているとも言えますよね。
コーチ力に加えて「人間力」を磨く
様々なコーチングの活用について考慮したし、コーチング業界の現状も理解した。それでも「起業したい」とあなたが思うならば。プロコーチとして活動していくために、コーチ力はもちろん「人間力」を磨き続けることは欠かせない要素かなと思います。
これは個人でやっていく上でもクライアントを惹きつける魅力になりますし、起業塾や有料広告を通してクライアントと出会う際にも、中身が伴っていなければ継続はしていただけません。また途中で方向転換して、組織内や学校などで活用していく際にも、スキルだけでは上滑りしますが、その人のあり方や人間力が磨かれているなら応援してくれる人も必然と増えます。
「人はダイヤモンドの原石であり、ダイヤモンドは同じダイヤモンドでしか磨けない。つまりは人と接することで磨かれていく」と、私の尊敬するコーチは言っていました。そのためにもコーチングを提供するだけではなくて、「コーチングを学ぶ」「コーチングを受ける」ことも欠かさずに、自分を磨き続けていきたいですね。
ーYou can guide someone as far as you have journeyed yourself.
(あなたは自分が旅したところまで、誰かをガイドできる。)