「ポジティブな言葉を使いましょう」
「愚痴や悪口はやめましょう」
とは、わたしたちが幼い頃から繰り返し聞いてきた言葉。でも、わかっちゃいるけどついネガティブな言葉を言ってしまう、口癖になってしまっている、という人もいるのではないでしょうか。
そもそも私たちが使う言葉は、脳にどんな影響を与えているのでしょうか?ポジティブな言葉を心掛けたい理由について、脳の持つ特性から改めて考えてみました。
脳は自分を正当化したい
脳は自分が「こうだ!」と判断したことと、現実のあいだに矛盾が起きることを嫌います。そのため自分の意見が正しいと思えるような情報を積極的に集めたがる傾向があります。「人は見たいものしか見ない」とはユリウス・カエサルの言葉ですが、私たちの見ている世界は、自分が選んだもので構成されているのですね。
例えば「わたしはやれば出来る」と信じている人は、上手くやれた過去の経験や自分のチャレンジ出来る能力に注意が向きやすいでしょう。反対に「わたしはつまらない人間だ」と信じている人は、失敗した経験であったり自分の弱みにばかり目がいくかもしれません。
脳からするとこの自分が「信じていること」がポジティブなのかネガティブなのかはあまり問題ではなく、それが正当化されるように動き続けるわけです。
この脳の特徴は、私たちが使う言葉にも影響を受けることが分かっています。言葉は思考が形になったものですから、「出来ない」と言えば出来ないを正当化する情報を世界から集めてきますし、「やれそう!」と言えばやれそうな理由を集めてきます。「分からない」と言えば分からないを全力で強化する情報を集めますし、「面白そうだ」と言えば面白いを正当化する情報を集めてくるのです。
脳内であれ、声に出すものであれ、ポジティブな言葉を使う人はどんどんポジティブになり、ネガティブな言葉を使う人はネガティブが強化される、ということが起こりやすいのですね。
ですから「自分の世界がネガティブであってほしい」という願望でもない限りは、ポジティブな言葉使いを心掛けるほうが、自分の人生を豊かにしたり、自己効力感を上げるものが集まってきやすいのです。
脳は主語を理解できない
自分に対してかけている言葉もそうですが、他者にかける言葉や他者のことを話す時に使っている言葉にも同じことが言えます。というのも脳は「主語を理解できない」という特性を持っているから。
誰かにネガティブな言葉をかけて自分自身が嫌な気持ちになった、ポジティブな言葉をかけて良い気分になった、という経験はありませんか?
例えば「だからお前はダメなんだよ」「まったく進歩が無いよね」と誰かにダメ出しをする時、脳にとっては「自分はダメな人間で、進歩がない」と言われているのと同じなのです。部下が「私の上司は本当に話が通じないし、仕事が出来ないんだよね」と誰かに愚痴や悪口を言う時、脳には「私は話が通じなくて、仕事が出来ない」というメッセージが届きます。
もし「私は相手に言わないように気をつけているし、愚痴や悪口は言わないようにしてる!」のだとしても、頭の中で同じことを考えているなら、それは脳に同じようなネガティブな影響をもたらします。
同様に「そういうとこ、すごいよね」「あなたのこういうところ、尊敬する」という承認の言葉を伝える時、脳は自分が褒められているのと同じ影響を受けます。「うちの上司、学ぶところがたくさんある人でさ」と誰かの素晴らしさを他の人に伝える時にも、脳にはポジティブな影響があります。
ネガティブな言葉を使っていると人が離れていく、というのは、脳が本能的に「この人といるとダメージを受けるぞ」と察知して距離を置こうとするのかもしれません。一緒にいると前向きな気持ち、明るい気持ちになれる人の周りって、やっぱり人が集まりやすいですし。
謙遜は良くない?!
以前アメリカのコーチングスクールに通っていた時、「傾聴(Active Listening)」のクラスの中で講師がこんなことを言っていました。
「傾聴をしっかり出来ると良いセッションになることが多いのよ。そうするとね、クライアントがよく”コーチのおかげです。ありがとう”って言ってくれるの。その時に絶対に、”いや、私は聞いていただけなので”と謙遜しちゃダメ。それをやると傾聴の価値が半減してしまうから。そうね、”わたし、聴くのが大好きなのよ”と答えるのもいいかもしれない」
日本ではよく誰かに褒められると「いや、そんなことないです」とか「私なんて全然まだまだで」と謙遜すること多いですよね。多いと言うか、いまだに美徳のように捉えている人も少なくない気がします。
わたしは謙遜は一種の「否定語」だと思っていて。もちろん言い方にもよるとは思うのですけど、少なくとも目の前のひとは「すごい」とか「素敵」とか思ってくれたわけじゃないですか。それを「そうではない」と返しているわけだから、「赤いですよね」と言われて「いや、赤ではないですね」と言ってるのと、根本的には同じなのかなと。
脳に届くメッセージは「自分は大したことない」になってしまうし、せっかく伝えてくれた相手もちょっと残念な気持ちになるかもしれない。どうせなら頂いた言葉は受け取って「ありがとうございます」とか「そういってもらえると嬉しいです」とポジティブに返せると、お互いの脳にとってWin-Winになれる気がします。
口グセは「魔法」のようなもの
映画「ハリーポッター」の中で主人公ハリーたちが魔法を使う時、必ず呪文の言葉を口にします。「アクシオ!」とか「オブリビエイト!」とか。友人のロンがよく呪文を間違えてハーマイオニーにツッコミをを受けてるシーンもありますね。
私たちが普段使っている言葉もまた、箒を呼び寄せたり記憶を忘れさせることは無いにしても、自分のエネルギーを下げたり上げたりする力は大いにあると思うのです。
「どうせ」「でも」「出来ない」「分からない」「私なんて」といった言葉が普段から口グセになっているとしたら、それは自分に対して一生懸命エネルギーを下げる魔法(というか、もはや呪い?)をかけているようなもの。
「やれる」「楽しい」「チャレンジしたい」「すごい」「次こそ」といった口グセは、自分を鼓舞したり、前に進むエネルギーを溢れ出させる魔法になります。
自分の口グセは自分では無意識に使っているので中々気づきにくいですが、まずは自分が普段どんな言葉を使っているか観察するところから始めましょう。そして、その言葉を口にするとき、自分にどんな影響を及ぼしているのかも。
あなたは自分にどんな「魔法」をかけたいですか?
▼言葉を通して、自分を探求し、変容していくプロセスを:
ストレングスファインダー「ポジティブ」の世界