セッションの長さが30分であれ、60分であれ、コーチングには通常の会話とはちがう基本的な流れがあります。各セッションはそれぞれ、クライアントとコーチが一緒にその瞬間から創っていくユニークなものですが、骨格となる部分はほぼ同じです。
この記事では、これからコーチングを受けたいと考えている方に向けて、コーチングセッションの流れについて詳しくまとめています。
初めに:なぜセッションの流れを知っておくといいのか
コーチだけではなくクライアントがセッションの流れを押さえておくことのメリットは、なんといっても「より主体的に関わりやすくなる」からです。
クライアントとコーチは、テニスで一緒に戦うダブルスパートナーのようなもの。試合では、一ポイントごとにサイドを変える、四ポイントになったらサーブとレシーブが入れ替わる、奇数ゲームが終了したらコートチェンジする、など決まった流れがあります。
もしその流れについて全く知らない状態だったとしたら、ただ自分のパートナーについていくしかありません。ですが全体の流れを知っていれば、今自分たちが置かれている状況が分かりやすくなりますし、自分が次にどんなプレイをする必要があるのかも判断しやすくなるのではないでしょうか。
コーチングの成果はクライアントとコーチのパートナー関係から生まれます。ですから、クライアントが主体的に関われば関わるほど、その成果は掛け算のように上がっていくのです。セッションの全体の流れを知っていれば、自分たちの現在地も分かりやすくなりますし、必要な場所にエネルギーも集中しやすくなります。
コーチングセッションの全体の流れ
セッションの基本的な流れは以下の通りです。
前回のセッションから今回までの気づきや学びをコーチと一緒に言語化したり、アクションプランについて振り返ります。
今日のセッションで扱いたいテーマについて話します。
扱うテーマについて、セッションが終わった時点で何が手に入っていたら良いかを合意します。
テーマについて自由に発想を広げて話します。コーチはあなたの話にじっくり耳を傾け、異なる視点からの質問をしたり、感じたことを率直にお伝えしたり、時にはあなたの視点に挑戦します。
気づきを日常に落とし込むための行動のプランを作ります。より軽やかに前に進むためにどんなアイディアがあるか、またどんな障害が現れる可能性があるかも含めて、コーチと一緒にプランニングをしていきます。
セッション全体を通して学んだことや得られたことを言語化し、セッション終了となります。この後、次回セッションの日程調整を行います。
各項目について、それぞれ詳しく説明していきますね。
チェックイン
セッションの始まりは、前回のセッションから今回のセッションまでを振り返ります。起きたことを詳細に話すというよりも、やったこと(もしくはやらなかったこと)からどんな学びや気づきを得たのか、というお話をコーチとしていきます。経験を価値ある学びに変えていくプロセスですね。
Coaching Labo LIBERTEのセッションでは、振り返りとテーマ出しのための「セッション準備シート」をお渡ししています。そのため、振り返りはポイントだけ押さえて、さらっとセッションテーマに入られる方が多いかなという印象です。
因みに、アイスブレイク的に直近の自分のニュースを話される方もいますし、振り返り無しでさらっと本題のテーマに入られる方もいます。セッションの時間をどう使うかはクライアントに委ねられているので、どのスタイルも全てOKです。
テーマの確認
まず初めにセッションで扱いたいテーマ(又はトピック)についてお話します。コーチからの質問の例はこちら:
- 「今日はどんなことをお話したいですか?」
- 「この45分で何について探求したいですか?」
テーマについて確認した後は、それについてクライアントがどう感じているのか、どうありたいのか、について探求を始めていきます。
よくあることなのですが、セッションの冒頭で話されるテーマは表面的な症状でしかなく、本当の課題はもっと別の場所にあることが少なくありません。例えば「仕事のパフォーマンスが上がらない」が話したいことだったとして、実際の課題は「パートナーとの関係にストレスを感じている」が大きく影響していることもあるわけです。
この「本当の課題は何なのか?」を探求するステップでは、登場人物や状況などの詳細について事細かに説明することはあまり重要ではありません。それよりも、「何がそのシーンの背景にあるのか」や「その状況を引き起こしているものは何か」などをコーチと一緒に探求することで、前に進むために向き合う必要があることを明確にしていきます。
セッションゴールの設定
本当に扱うべき課題が明確になったら、このセッションでの目的地を設定します。セッションゴールは、クライアントとコーチの「今日は一緒にここを目指そう」という合意です。コーチングが一般的な会話とは最も異なる部分かもしれません。コーチからの質問の例はこちら:
- 「セッションが終わった時点で何が手に入っていたらいいですか?」
- 「このセッションから何を持ち帰れると、あなたにとって価値のある時間になりますか?」
セッションゴールの重要性は、車のカーナビを思い浮かべていただくと分かりやすいでしょう。カーナビは、現在地と目的地があって初めてルート検索が可能になります。例えば目的地が無かったり、もしくはあったとしても「六本木」ぐらいのざっくりした目的地だとすると、意図しない場所で車を降りることになったり、同じところを周って無駄に時間がかかってしまうかもしれません。
また「どんな人生を生きたいのか?」のような大きなテーマの場合、30~60分のセッションでは中々話しきれないこともあります。英語で「Eat the elephant one bite at a time(ゾウは一口ずつ食べなさい)」という表現がありますが、時にはゴールを一つのセッションの中で辿りつけるサイズに分けることも必要です。
例えば「これだけは外せないという価値感を1つだけ見つける」とか「自分の理想の人生を明確にするためのアイディアを5つ出す」など、大きなテーマを扱う時はクリエイティブに色んなゴールを考えてみましょう。
コーチングは、「現在地(今、ここ)と目的地(ありたい姿)のギャップ」を埋めていくプロセスです。可能な限り明確なセッションゴールを設定することは、クライアント自身のエネルギーを集中する上でも、またコーチが限られた時間の中で効果的にナビゲートする上でも、とても大切なステップです。
テーマについて探求する
二人で一緒に目指す場所が明確になったら、ここからは自由に探求をする時間です。コーチング、と聞くと、コーチが質問してクライアントが答える、というスタイルを思い浮かべる方が多いと思いますが、実際のセッションはもっともっと自由でクリエイティブなものです。
質問そのものをクライアントとコーチが一緒にブレストしてみたり、クライアントの話を聞いていて感じた洞察をコーチが伝え、そこからさらに話を展開したり。メタファー(比喩)やストーリー使って新しい視点から課題を眺めることもあれば、ランキング形式で一年を振り返ってみることも。私のセッションではいくつかのツールが引き出しに入っているので、「ちょっとPoints of Youのカードを一枚引かせてください」「これストレングスファインダーの資質から考えてみてもいいですか?」なんて、クライアントさんからリクエストいただくこともあります。
「面白い」と感じることは、脳がクリエイティブな思考になるのを助けます。世界をいつもとは違う視点から眺め、その捉え方が変われば、目の前の課題への感情やそれに付随する行動にも変化が起きます。コーチからの質問を待つというよりも「コーチのサポートを得ながら自分自身で見つける」という、未知の世界を自ら探検するようなマインドがクライアントにあると、新しい発見や気づきへと繋がりやすくなります。
アクションプランの設定
気づきを日常に落とし込み、自分にとって本当に価値のあるものにするには行動が不可欠です。セッション後半では、前に進み目的地に近づくためにはどんなアイディアがあるかを考えていきます。その際一つではなく複数のアプローチを出すことでより良い道を見つけたり、また行動を達成する上で助けになるものや起こりうる障害についても話します。
- 「○○になるためには、何が起きる必要がありますか?」
- 「障害になりそうなものは何ですか?」
- 「どんなサポートがあると、前に進みやすくなりますか?」
アクションと聞くと「毎日ブログを一つ書く」「○○さんとこの件について話す」など、明確な分かりやすい行動を思い浮かべる方も多いかもしれません。コーチングにおける行動の定義はとても幅広く、例えば「情報がとにかく足りていないのでまずは必要な情報を集める」ことだったり、「セッションで気づいたことについてさらに考えを深めてまとめる」、または「目標達成に必要のない何かを止める」ことなども含まれます。
「Eat the elephant one bite at a time(ゾウは一口ずつ食べなさい)」はアクションプランを設定する上でも、大切なポイントです。特に最初のステップは「Baby step(赤ちゃんの一歩)」と呼ばれるぐらいの、とても簡単な何かを設定することが行動達成へと繋がります。
クロージング
セッションの最後は、この時間の中で得られた学びや気づきを収束させる形で終わります。
- 「このセッションであなたにとって一番価値のある学びは何でしたか?」
- 「今日のセッションから持ち帰る気づきは何でしょうか?」
このプロセスは個人的には「点(Dots)を作ること」だと考えています。セッションの中ではたくさんのことが話されますし、様々な気づきが起きます。特に自分にとって新たな発見があったセッションでは、高揚感が生まれ、満たされた気持ちになるものです。一方で、セッションのあと忙しい日常に戻ると、それはあっという間に霧散してしまいます。
セッションの気づきをぎゅっと凝縮して一つの点にしておけば、頭の中でシナプスが繋がるように日常の様々な場面でも新たな気づきが生まれやすくなったり、またその点を起点にして新たな思考が拡がったりもします。
余談ですが、元々私は思考を拡散していくことは得意でしたが、収束させることがとても苦手だったのです。話していると新しいアイディアや考えはどんどん浮かんでくるけれど、それをまとめることが難しい。
ですが、このコーチングセッションの最後の学びや気づきを収束させるプロセスが習慣化してから、自分にとって重要なことを一つの単語や短いフレーズで表現することがむしろ得意になったように感じています。コーチングは「成長のプロセス」とは本当にこのことですね。
Tips 1: 自分流にカスタマイズする
コーチングのセッションの流れをここまでお伝えしてきましたが、これはあくまでも基本のレシピのようなもの。セッションを何度か受けて全体の流れが掴めたら、自分なりのスタイルにカスタマイズしていきましょう。
その際、「自分の心地よさ」を追求するというよりも、「自分が目指す場所に辿りつくために、コーチからどんなサポートがあるといいか」にフォーカスするといいのではないかと思います。もちろん安心して何でも話せる場を創ることは大前提として大切なのですが、心地よさは時に私たちをいつもの思考、行動のパターンに留まらせてしまいます。
ブレイクスルーを起こすために必要なことは、しばしば「心地悪さ」の中に眠っています。もしあなたが自分が成し遂げたことを認めるのが苦手なら、コーチと一緒に学びや気づきを振り返る時間に価値があるかもしれません。考える、気づくだけで満足して実際の変化に繋がりにくいなら、強固な行動のプランを一緒に作る時間がいるのかもしれません。
コーチングセッションには決まった正解は無いので、クライアントが選んだものがどれでも正解です。ですから「自分にはどんなスタイルが合っているか」を見つめ続けること、必要に応じて変化させていくことが、自分にとって本当に価値のあるセッションを作ることにも繋がっていきます。
Tips 2:子供のような遊び心を大切に
「色んな選択肢がある」「正解は無くてどれでも正解」というコーチングの世界は、初めてコーチングを受ける方にとっては戸惑いを覚えるものかもしれません。私たちは学校教育でも、仕事でも、決まった正解があることが多かったですから。
セッション中に限らずセッション間の行動も含めて、選択に迷う時は是非「遊び心」を大切にしてほしいなと思います。物事を新たな視点から眺める=クリエイティブな思考になるためには「こんな風にやってみたら面白いかも!」「この道を行ったら何が見えるんだろう!?」という子供のような好奇心が役立ちます。
私の屋号の「Labo(ラボ)」はフランス語で、「実験室」という意味があるんですね。私の古巣のパティシエがお菓子を作るキッチンも、ラボと呼ばれます。実験には、失敗がつきもの。20年やっている熟練の職人でも、新しいものを生み出す時には失敗するのです。
コーチングセッションがあなたにとって「上手くいくかどうか分からないけど、ひとまずやってみる」というチャレンジ精神を奮い起こす場に、失敗も一つの経験として自分の人生の糧にしていける場に、なっていくといいなあと思っています。
是非あなたらしいセッションのスタイルを、コーチと一緒に創ってみてくださいね。
ーHave a fun journey!


