【11/16(土)】Re:Book~ひとつの物語から始まる対話の空間~「独創性(Out of the box)」

コーチングの秘訣は「アハ体験」+「行動」

コーチングを受けていると、セッションの最後に
「何から始められそうですか?」
という質問をされることもあれば、
「どんな気づきがありましたか?」
で終わることもあります。

セッションでの気づきを元にした「アクション」について尋ねられる時、そうではない時があるんですよね。コーチとクライアントの信頼関係が強くなってくると、「気づいたら行動できる人だから」というお互いの認識のもと、敢えて聞かないこともあるようです。

Points of You®などのコーチング関連のワークショップでも、やっぱり「最初の一歩」を最後にシェアする、シェアしない、両方あります。
「う~ん、そもそも行動に焦点当てるのはなんで大事なの?」
なんて問いが浮かんできたので、この記事では改めてコーチングにおける「行動」について探求してみます。

「アハ体験」だけでは足りない

セッションの対話の中で、
「そうか、これが欲しかったんだ!」
「そういうことだったのか!」
といった気づきが生まれる瞬間を、「アハ体験(A-ha moment)」と呼んだりします。

これまでの自分には無かった視点を手に入れ、世界が少し変わって見える瞬間です。実はこれ、コーチングセッションに限らず、日常生活の様々な場面で起きています。友人と話している時やテレビを見ている時、本を読んでいる時に同じような「そうか!」が起きたこと、あなたもあるのではないでしょうか。

アハ体験が起きるときには、脳内にドーパミンが出ます。「ヤル気」や「幸福感」にも繋がる脳内物質なので「何か行動を起こしたくてたまらなくなる」、そんな感情も湧いてくるかもしれません。ところが、少し時間が経つと、その気持ちは風船のように萎んでいってしまいます。新たな行動を起こすことも、なんだか面倒くさくなってしまう。

「ビジネス本や自己啓発本を何冊も読んだり、色んなセミナーにも行ったけど自分は変わっていない気がする」という感覚は、こんな風に生まれるような気がするのです。

コーチングを通して成長していくプロセスの中では「行動の変容(Shift in behavior)」が必須であると言われます。いつもやってしまうパターン、ついつい陥るパターンを壊して、新たなパターンにシフトしていくのです。

アハ体験が起きた瞬間は「変わった」ような感覚がするのですが、実際には自分の内側の世界に変化が起きただけ。「行動」を何も起こさなければ、それは「アハ体験付きのいつものパターン」でしかありません。

せっかくアハ体験で得られた「ヤル気」エネルギーを、消えないうちに「行動」に投入すること。これ、とっても大切なのです。

セッションの気づきを行動に起こす、というパターンが出来るまでの初期の段階であったり、具体的な行動のプランを作るのがあまり得意でない方には、コーチのサポートがあったほうがいいかもしれません。

「行動」は、パターンを壊すトリガー

コーチングでは、時々クライアント本人も驚くような「行動の変容」が起きることがあります。わたし自身もこれまでに大きな「行動の変容」が起きた瞬間がいくつかあるのですが、印象的だったものをひとつ紹介しましょう。

数年前、とあるベンチャー企業で二週間の入社研修を受けました。毎日研修での気づきをレポートで提出する宿題があったのですが、私は同期に比べてすごく時間がかかっていたんです。理由の一つは、私の中に「じっくり考えてから、言語化したい」というニーズがあったから。私がストレングスファインダーを初めて受けたのもこの会社で、「内省」がTop5なのも納得感がありました。

ところが研修の中で「とても時間がかかっている」という話をしたとき、講師の一人が「研修の時間内にレポートを書くように」と私に言ったのです。最初はとても腹が立ちました。「なんて無理なことを言うんだろう!」「私のことを分かってくれない」と。

とはいえ転職したばかりで、逃げ出すわけにもいきません。そこで私は「どうすれば研修時間内にレポートを書けるのか?」について、少しずつ考え始めました。やがて、自分がレポートに書いていることは全て、「顧客やスタッフと同じ方向を向くには?」というテーマに紐づけていることに気づきました。

では、最初から「このテーマがどう関連付けられるか?」という問いをもって研修に入り、気づきがあるたびに書き留めれば、研修終了と同時にレポートが出せるのでは?と考えたのです。

結果は大成功でした。むしろ、より集中して研修内容を聴けたので、いつもより「分かった!」の瞬間が多くありました。この体験は私に大きな気づきをもたらしてくれました。ひとつは「研修内容はちゃんと”全部”聞かなければいけない」と思っていた自分に気づけたこと。研修中にレポートを書くスタイルは、文章を書いている間、講師の声が耳に入ってこないので、全体の80%ぐらいしか頭に入ってきません。でもそれは実際のところ、あまり大きな問題ではありませんでした。

もう一つは「自分には短い時間で文章を書くのは無理」と思っていたのが、「間違いだった」と分かったこと。確かに当初のやり方では難しかったでしょうが、いくらでも他にやりようがあったことに気づいたのです。

この体験は講師からの「リクエスト」という形で始まったため、少しレアなケースかもしれませんが、実際のコーチングの中でも「では、どうすればできるのか?他の選択肢は?」という対話をよくします。その時に、自分の能力や物事への向き合い方について、自分が無意識に思い込んでいることに気づくことが出来れば、他のアプローチもあるかもしれない、と「可能性」が拡がっていくのです。

今思うと、この時の体験はわたしの「内省」が開花した瞬間であり、そのきっかけは「ひとまずやってみる」ことでした。

「シフト」と「チェンジ」の違い

この「ひとまずやってみる」という感覚は、変化を起こす上で一つの鍵かもしれません。永久的に変わることをイメージすると、「うまくやれるだろうか」と不安が大きくなりがちですが、「ひとまず」ということは「ダメなら戻る」「別のやり方に変える」という選択肢も残しているわけです。

「変わる」を意味する英語というとチェンジ(Change)が思い浮かぶ方が多い気がするのですが、コーチングの対話では、シフト(Shift)もよく使われます。意味合いには少し違いがあって、以下の通りです。

シフト(Shift)=進行方向や位置がズレるように変化すること。
チェンジ(Change)=外観や内容がガラリと大きく変化すること。

シフト(Shift)の場合、「横にズレる」という意味合いが強く、視点の変化(Shift in perspective)という使い方もあります。中身は変わらないけれど、位置がズレることによって、世界の見え方が変わるんですね。また「向かう方向にも変化がある」というのも面白いですよね。確かに行動のパターンが変わると、未来が変わるようなイメージもあるので。

よく使われる「行動の変容(Shift in behavior)」という表現からいっても、コーチングで起きる行動の変化は、一気に変える、というよりも「徐々にずらしていく」という感覚のほうが近いのかもしれません。

「自己変容」は羽化のよう

コーチングに初めて触れる方、特に企業などで導入される場合は、短期間でクライアントに劇的な変化が起きることを期待される方がいます。実際のところ、「コーチングとはプロセスである」と言われるように、30年、40年と繰り返してきたパターンを壊して、行動が変わるためには、それなりの期間を要します。一回のセッション、一回の研修だけでは、自己啓発本を読むのとあまり大差ないかもしれません。

コーチングの中でもよく扱われるヒーローズ・ジャーニーにおいては、このクライアントの変化は「変容(Transformation)」と呼ばれています。Transformationは、蝶々が幼虫から蛹になり羽化するプロセスにも使われる言葉で、メタファーとしてもよく似ています。アゲハ蝶がその生涯の二割の時間を蛹の中で過ごすように、ゆっくりゆっくり変化が起きていくのです。

コーチをしていると、中々行動が起きないクライアントに対して、焦ったり、アドバイスをしたくなったりすることがありますが、表面的には見えなくてもクライアントの中では何かが起きています。蝶が蛹の中で変化を続けているように、クライアントの中でも変化は起きているのです。それぞれのタイミング、それぞれのプロセスがあるので、コーチはクライアントを信じてじっと待つことも、時には必要です。

「行動」はクライアントの中から生まれる

国際コーチング連盟がコーチに必要な要素をまとめた、コア・コンピテンシーの8つの項目の一つには「行動」に関する以下のような記述があります。

8.クライアントの成長を促進する(Facilitates Client Growth)

定義:学びと洞察を行動に変容させるためにクライアントと協力しあっている
(Partners with the client to transform learning and insight into action.)

ICF/Core Competency

セッションの中で学んだことや気づいたことと、日常を繋ぐものが「行動」です。原文のFacilitate(容易にする)という言葉の通り、コーチが関わることでクライアントがより軽やかに最初の一歩を踏み出せるのが理想的ですね。とはいえ、「いつやるの?」「誰とやるの?」と定型文の質問でコーチが主導権を握るのではなく、クライアントがまだ見ていない選択肢やリソース、起こりうる障害などにも焦点を当てるサポートをしていきます。

「行動」は、ストレングスファインダーを通して見えてくる自分のパターンが認識出来ていると、より効果的にカスタマイズが出来ます。例えばわたしの場合は、なんでも「最初のハードルを上げる」傾向があるので、少し低めのハードルを設定するよう意識します。もしくは「より効率を上げるアプローチは?」や「楽しく取り組むには?」と問われると、喜々として脳内が動き始める。ブースターになる感じです。

個人的な感覚なのですが、気づきと日常を繋げる「行動」について話すとき、私はぐっと現実に引き戻されるような感覚があります。話しているテーマによっては、少しプレッシャーに感じてしまうことも。でも一度言語化してみることで、実際に行動に起きたこと、変化に繋がったことってこれまでにもたくさんあるんです。「言葉にする」ことが、インスピレーションやモチベーションになったのかもしれません。

セッションの「行動」のフェーズで起きていること。それはただのアクションプランを決める場ではなく、そのプロセスからもクライアントは様々なものを得られるのだなと感じます。そのアクションは、人生にどんなインパクトを与えるのか。どんな工夫をすると、楽しめるのか。コーチとクライアントの「クリエイティブさ」が、求められる瞬間かもしれませんね。

さて、ここまで読んでみて、あなたの中にはどんな気づきがあったでしょうか?その気づきをどんな風に、あなたの日常に溶け込ませることが出来ますか?

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