【保存版】ストレングスファインダーを活用して部下の強みを引き出す5つのコツ

ストレングスファインダーを通してスタッフの傾向性が理解できてくると、マネージャーの頭の中にはひとつの疑問が浮かびます。
ではこのツールを使って、部下の強みを引き出すにはどうやればいい??

実際のところ、上司と部下の才能の組み合わせが無数にあることから、ケースバイケースです、としか言えないのですが、参考までにわたしが部下の育成に活用した事例を紹介します。自分の関わり方を変えることで部下の才能を強みに育てるサポートがしたい、と考えているマネージャーの方は是非読んでみてください。

ケーススタディ:Aさんの場合

一人目の事例は、思考力が高くミスが少ないタイプのスタッフAさん。完璧主義で、仕事の仕方はかなり慎重。自分のなかで納得してから行動に移す傾向がありました。上位資質は、自我、調和性、内省など。私がAさんの上司になった当時のイメージは「与えられた仕事はしっかりやれるが、新しいチャレンジに尻込みする」。強みとして使えている資質もあるけど、一部ブレーキになってしまっている資質もある、という状態でした。

もう一つ上のステージに上がってもらうために実際にとったアプローチは、新しい仕事に取り組む際「なぜこうするのか」ロジックを説明した上で、初回はぴったり横について教える。ほんの少しでも出来たところを認める、もっと上手くなるためのコツを伝える⇒再度実践、の繰り返し。

自我が上位ということもあり、とにかく「あなたの姿はわたしの視界にいつもいる」ということを、あらゆる方法で伝え続けました。Aさんはとっても負けず嫌いで、失敗が悔しくて涙する日もありましたが、一旦成し遂げると決めたら類まれな努力をできる才能の持ち主。通常覚えるのに1年はかかる業務を、なんと半年で習得。新たな分野にも積極的にチャレンジするようになり、頼れるパートナーの一人に成長してくれました。

ケーススタディ:Bさんの場合

二人目の事例は、頭で理解するのではなく、実践して、体験から学んでいくタイプのスタッフBさん。実はこの方、私が新しく上司になったとき、周りのスタッフ全員が「彼はこの仕事には向いていない」と諦めていたスタッフでした。上位資質としては、社交性、最上志向、学習欲などを持っていましたが、どの才能もうまく機能していないように感じられ、目は完全に輝きを失っていました。

この方との最初の面談で自分が言った言葉を今でもよく覚えています。「周りがあなたを諦めても、あなた自身が諦めてしまっても、わたしは絶対に諦めないので覚悟して」と言い放ったんですよね私。出会って一週間ぐらいの頃だったので、Bさんも「この上司は何を言い出すんだ?」とビックリしていた記憶があります。

Bさんの場合にはロジックを教えるのではなく、ひとまずやらせて、実際に素材の状態を見せながら「今何が起きているか?」「なぜこれが大切か?」相手に質問しながら、根気強く一緒に考える手法をとりました。ティーチングで教えてしまう方が時間は短くて済みますが、Bさんには「自分で考える」習慣を身につけてもらう必要があったからです。また失敗の体験も一つの大切な学びの要素だと私は考えていたので、顧客に迷惑がかからないギリギリの範囲で、敢えて失敗させる(手を出さない)こともありました。

育成のためにポジションを大きく変えたこともあり、最初は中々成果が出ませんでしたが、3カ月も経つと周りのスタッフから「目つきが変わった」と言われるようになり、目をキラキラさせて仕事に取り組む姿が見られるようになりました。当初は何でも「どうすればいいですか?」とすぐに誰かに聞いていたのが、「今こういう状態で、こうしようと思うのですがどうでしょう?」と自分で考えてから、アイディアを持ってきてくれるようにもなりました。ただ考えるためのきっかけが無かっただけで、本当はとても優秀で可能性に満ちたスタッフだったんですよね。

Aさんの場合も、Bさんの場合も、途中のアプローチこそ違えど、実は大枠としては同じやり方で育成を進めています。どのタイミングでストレングスファインダーを活用できるかも合わせて、5つのコツを以下に書いておきます。

育成のコツ①:ビジョンを一緒に描く

部下の育成において、最初の大事なステップは「ビジョンを一緒に描く」こと。組織でよくありがちなのは、会社の求めるゴール(目標)を一方的に伝えるだけになっていて、スタッフの「主体性」が欠けている状態です。人は外から与えられたものと、内から生まれたものでは、コミット度合いが大きく変わります。つまり、会社のゴール、個人のゴール、それらが重なる部分を見つけ出すことが出来ると、その人なりのゴールに向かう理由が生まれる

まずは部下が「どんなことをやりたいか」「どんな自分になりたいか」をしっかりとヒアリングする時間をとります。もしこれまでにあまりじっくり話をする機会が無かったなら、「この職業につきたいと思ったきっかけ」や「将来の夢」を聞くのもいいかもしれません。

その上で、マネージャ―として部下に期待していること、具体的な期日をあげて、例えば「半年後にこうなってほしい姿」を共有します。そこから、このゴールを達成することが部下にとってどんな意味があるのか、将来にどう繋がっていくか、一緒に探求していきます。ある程度会社と自分のゴールの重なりが見えた時点で、必ず最後にこう質問します。
「どうかな、チャレンジしてみたい?」

馬を水場まで連れていくことは出来ても、水を飲ませることはできない。最終的には、本人の「Will(意志)」が全てです。マネージャーに唯一出来ることは、思わず水を飲みたくなるような環境づくりなのかもしれません。

このフェーズではストレングスファインダーは使いません。このツールは「How(どうやってやるか)」を扱うものなので、「What(何をやりたいか)」や「Who(どんな自分になりたいか)」の話ではむしろ邪魔になってしまうことがあるから。

ビジョンを一緒に描くには、マネージャーに「コーチング能力」があると、このフェーズをより効果的に行えると思います。相手の話をしっかりと聴くこと、これからの育成の土台になる信頼関係を築いていくこと。相手が頭の中にぼんやりと描いているビジョンを具体的に言語化していくのに、的確かつ視座の高い質問力も必要です。

また設定するゴールとしては、現状から見て十分到達可能なゴールよりは、ちょっと背伸びをしないと辿りつけないゴールのほうがより成長に繋がります。これまでのやり方では通用しないので、部下がパターンを壊して、次のステージに進むためのきっかけになるからです。

育成のコツ②:相手の「ニーズ」を知る

ニーズとは、育成のプロセスのなかで欠かせない必要なもの。植物でいうなら光や水のことです。部下が成果をあげていくために必要な環境を整えられると、本人のエネルギーはすべて成長に集中できます。反対にここが抜けていると、どんなに時間やエネルギーを投資しても、ストレスになったりプレッシャーになったりして空回りすることも。

部下のニーズはストレングスファインダーを活用できます。例えば事例のAさんの場合、しっかりと考えたりプランを練る時間をとれるよう配慮する(内省×収集心)、怒らなければならない場面でも冷静に接する(共感性×調和性)、部下の存在が私やチームにとって価値があることを常に伝える(自我)などを意識していました。

同時に、自分自身のニーズを把握し、それを満たすシステムを作っておくことも大事です。飛行機で緊急事態が起きたときまず自分に酸素マスクをつけるように、自分にとっての光や水が十分にあるからこそ、相手にも気を配れるからです。

マネジメントだけでなく、自分の仕事も多く持っているプレイングマネージャーにとっては、少し「面倒だな」と思うこともあるかもしれません。とはいえ、土壌をしっかり整え、雑草を抜いてやり、適切な環境を準備すれば植物がぐんぐん育っていくように、部下もまた驚くほどの成長を見せる可能性が高いのです。部下が成長すれば、よりレベルの高い仕事を任せられるようになるし、マネージャー自身も新しいことにチャレンジできたり、時間差で得られるものが多分にあるので、その価値は計り知れません。

▼各資質が持つニーズの傾向性については、書籍「ストレングス・リーダーシップ」の中でも扱っていますので、興味のある方は覗いてみてください。

育成のコツ③:相手の「動機」を知る

植物でいう「栄養」にもあたるのが、部下の「動機」つまりはモチベーションに繋がる要素。もっと成長したい、もっと学びたい、が部下の中で起きれば、こちらが多くを与えなくても、部下は主体的に動き始めます。

事例のAさんとBさんは、どちらも収集心、学習欲があり、「新しい知識」「新しい技術」などが、インスピレーションの源になっていました。私が働いていたフランス料理の世界は、常に新しい食材や技術がでてくる業界。積極的にそういったものを取り入れて、二人にも紹介したり、高度な技術にも触れる機会を作っていました。

仕事のレベルが低いうちから、もっと上の人達がやっていることを教える必要は無い、という考えもあるでしょうが、個人的には「わたしにも出来るかも」「こんな風になりたい」といった、未来への希望が生まれる状態が大切だと思っています。仕事に対して「面白い」と思える環境があれば、学びや成長へのエネルギーも燃え続けますから。

部下の動機を知る際にも、ニーズ同様にストレングスファインダーが役立ちます。因みにこの時注意したいのは、自分(マネージャー)の動機を、無意識のうちに部下も同じだろうと思ってしまうことです。他者に期待されることでやる気を出す人もいますが、人によっては期待がプレッシャーでしかない場合もあります。自由に出来る環境でイキイキする人もいれば、細目に見てくれるほうが安心して取り組める人もいます。

部下のパフォーマンスが上がっていない時、上司が自分の上手くいくやり方を無意識に部下にも押しつけているケースは結構多いので、自分自身の傾向性を把握しておくことは必須です。人それぞれに異なるニーズや動機がありますから、資質を鍵に部下との対話を通して、その人だけのスタイルをカスタマイズしていくことが大切です。

育成のコツ④:周りを巻き込む

AさんとBさんの育成のプロセスで、わたしが大切にしていたことのひとつは「周りを巻き込む」こと。ゾウの子育てにも似ているのですが、チーム全体で二人を育てるイメージを持ってたんですよね。

なぜこれが大切かというと、部下に関わる人間全てが、彼らに影響を与えているから。仮に自分と部下の間には良好な信頼関係が築かれていたとしても、他の人がそこに余分な水をあげたり、光が当たらない環境をつくってしまうと、せっかくの苦労が水の泡。一歩進んでは二歩下がり、みたいな状態では、中々前に進めません。

特に当時の職場は定休日が週一日だったため、シフトの関係で自分が職場におらず、他のスタッフに部下を任せる日もありました。そうするとますます、「私がいなくても部下が育つ環境」をシステムとして作っておく必要があったんですよね。

周りの巻き込み方は、人それぞれ得意なやり方があるとは思うのですが、私の場合は「こんな風に育てようと思っている」「そのためにあなたの力を貸してほしい」ということを、チーム内の二人のマネージャーを始め、他のスタッフ全員に共有していました。当時はまだ確固としたコーチングのスキルが無かったので、部下とのやり取りで上手くいかないことも多く、他のスタッフに相談することも日常茶飯事。でも、それが返って功を奏したらしく。スタッフの中に「自分がしっかりせねば」という責任感と主体性が生まれ、チーム全体で部下を育てていく文化ができていったんですよね。

ストレングスファインダーを活用するチームビルディングでは、「自分の強みを相手のためにどう活用できるか」という視点について考えます。パズルのピースをはめていくように、個ではなくチーム全体で考えてみることが、成功への鍵のひとつかもしれません。

育成のコツ⑤:第三者の視点を取り入れる

周りを巻き込むことにも繋がるのですが、部下の育成において大切なことのもう一つは、「自分以外の第三者の視点を常に持っておく」こと。特にストレングスファインダーを活用する場合は、資質の傾向性に引っ張られて部下本人が見えなくなることがある。視野が狭くなるのを避けるためにも、第三者の視点は不可欠です。

私は当時、人事部長によく相談をしていたのですが、コーチングをしっかりと学ばれた方で、とても客観的な視点から関わってくれたんですよね。「今何が起こっていると感じている?」「どんな工夫が必要そう?」「相手の特性を考えると、何を見落としている?」などなど、わたしが見えていないことを明確にする質問をするだけでなく、「あなたはとてもよくやっている」「きっと大丈夫。また様子を聞かせて」と承認してくれたりもしてました。

上司も人間ですから、育成に関わる上でイライラしたりガッカリすることもありますし、無意識のうちに自分自身の資質のフィルターで相手を見ていることもあります。それらを払拭して視野を広げてくれる、クリアにしてくれる、上司や人事の方のサポートがあるかどうかは、かなり重要な要素になると思います。

もし、会社にそういう人がいない場合は、コーチをつけてみるのも一つの選択肢。社外コーチの場合、会社の内部事情が分からないので、より盲点に気づきやすかったり、より客観的な視点が手に入るのもメリットです。

ここからはストレングスファインダーを部下育成に活用する上で、おさえておきたいポイントをお伝えしていきます。

ポイント①:ツールはあくまでも「媒体」

ストレングスファインダーは本当に面白いツールなので、つい資質だけを見て相手を理解したような気になってしまいます。でもツールはあくまでも、人の育成をサポートするための「媒体」でしかありません。資質を知ることが相手を知ることでは無いし、ストレングスコーチになった今痛感するのは、組み合わせによってその人にしか出せない才能の色合いがあること

「こういった傾向があるのではないか」という見立てをすることには使っても、部下との対話は絶対に忘れない。なぜなら「真実は本人の中にしかない」ので。上司からの一方通行の会話ではない、互いの中にあるものを引き出す対話を繰り返すと、信頼関係が芽生え、部下の育成ははるかに楽になります。

AさんとBさんに対しては、まわりのマネージャーがちょっと引くぐらい、頻繁にコミュニケーションを取っていました。業務と関係のないカジュアルな話のやり取りもですし、仕事で失敗した時は絶対にそのまま帰らせない。自分の予定していた仕事を翌日に回しても、代わりに部下とリフレクション(内省)の時間を一緒にとり、失敗を学びに変えて次に繋げられるようにすることもありました。

ストレングスファインダーはチーム内の共通言語になり得るので、「どの資質が上手く使えていなかったのか」「次回はどんな工夫をしてみるのか」「そのために使える自分の強みは何か」というやり取りから、少しずつ少しずつ、自分の才能をコントロールすることを覚え、効果的に使えるようになっていきます。

ポイント②:時間を投資する

ストレングスファインダーを手にするマネージャーや人事の方の中には、「このツールを使えば2、3か月で部下が出来るようになるのでは」と期待される方がいます。ですがこのツールは、魔法のツールではないのです。これまでに20年、30年と繰り返してきた思考や行動のパターンを変えていくには、少なくとも半年から一年はかかりますし、もっと時間が必要な事もあるでしょう。

人材育成を妨げる一番の要因は、成果を急ぐことです。中々変わっていかない部下を見て上司が焦りを感じる時、その思いは「早く変わってほしい」というエネルギーとなって、部下に伝わります。人は自分を変えようとする存在に対して守りに入りますから、益々育成のスピードは遅くなります。本末転倒ですよね。

3か月ぐらいを目途に変化の兆しが見えたら、ひとまず良しとすること。部下の育成のために時間を投資すると覚悟すること。相手の可能性を誰よりも信じ続けること。成果ではなく「プロセスに焦点を当て続けること」が、最終的には一番の近道な気がします。

ポイント③:自分の成長が部下に反映される

AさんとBさんの事例を人にお話すると、「忍耐強いんですね~」なんて言葉をもらうことがあります。でも私、どちらかというとあまり我慢できないほうなんです。じゃあなぜ上手くいったかというと、これまでにも自分自身に同じような関わり方をしてくれた上司が何人もいたから。チャレンジしたことや感じている壁、自分の強みや大事にしている価値感、まるっと全部認めてくれる人達との関わりの中で、成長してきたと思っています。

部下の才能を強みに育てたかったら、自分の才能を強みに育てる経験が必要です。自分自身も通ってきた道なら、その難しさや乗り越えるコツ、チャレンジする価値を一緒に共有できます。どんなサポートがあれば役に立つかも分かるし、誰かに話を聴いてもらった経験があれば、自分も話を聴けるようになります。上司と部下の成長は、鏡のようにリンクしています。

もし部下にハンドルを握って主体性を持ってほしいと願うなら、上司は自分がハンドルを手放すことを学ばなければいけません。もっとうまく時間管理をしてほしいと願うなら、自分自身が誰よりも時間管理に取り組んでいる必要があります。パーフェクトな自分になる、ということではなく、部下と同じように、自分自身も成長し続けることで、それが部下に反映されていくのです。

成果を出し続けることを求められるマネージャーにとって、メンバーの育成はひとつの大きな課題だと思います。どのように自分の時間に折り合いをつけるのか、成果とのバランスをどうするのか。

その葛藤、すごくよく分かります。職人時代のわたしも中々手放せくて、たくさん悩んだし、たくさん壁にもぶつかりました。

物事が本当の意味で動き出したのは、「1年後の10の成果を取りに行くために、目の前の3の成果は諦める」と覚悟を決めた瞬間だったように思います。「私の成果」が「私たちの成果」に変わった時、「私の強み」が「私たちの強み」に変わった時、チームのパズルがようやく合わさりはじめ、少しずつ強い組織へと変わっていきました。

ひとつでもふたつでも、この記事の内容からマネージャーの皆さんが盗めることがあるといいなあと思います。あなたにはあなたにしかできない、育成のアプローチが必ずあります。是非自分らしいスタイルで、取り組んでみてくださいね。

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