感性と黄金比

黄金比と白銀比

ギリシャのパルテノン神殿や、スペインのザグラダ・ファミリア。誰もが見とれてしまうような美しい建造物には、1:1.618の「黄金比」が多く使われています。建造物以外でも、モナリザやミロのヴィーナスなど芸術作品をあげればキリがないほど。実は意外と身近なものにも使われていて、名刺やハガキなんかも黄金比でつくられているのです。なんとな~く安心するあの比率、分かる気がしますね。

一方で、日本では「白銀比」と呼ばれる1:1.4の比率が昔から使われてきました。奈良の法隆寺や、生け花の伝統的なフォルムなど、黄金比に比べると少しぽっちゃりした形です。コピー用紙のA4、B3などと呼ばれる規格もすべて白銀比。面白いところでは、ドラえもんやキティちゃんなどのキャラクターも、実はこの比率が採用されています。

10年以上前、私がフランスに住んでいた頃、パティシエのワールドカップともよばれる「Coupe de Monde de la Patisserie(クープドモンド)」を見に行ったことがありました。各国3人の精鋭パティシエが数日間をかけて技術を競い合う、とても大きな大会です。

私が会場に行ったのは大会3日目、飴を用いた工芸細工を作成する日。日本チームは定められた60X40cmの台の上に見事な白銀比で作られた緻密な飴細工をつくり、会場から大きな拍手をもらっていました。そしてフランスチームもまた黄金比でつくられた飴細工を観客の前に運び、地元フランスのお客さんからその日一番の拍手が起こりました。

黄金比を越える感性

そのわずか数分後ひときわ大きな歓声がわき、イタリアチームが作品を持って現れました。黄金比を遥かに越える3メートル近い高さの、ロマネスク様式の教会のような飴細工。
繊細さを際立たせるため、薄い飴で組み立てられた細工はほんの少しの振動で揺れるため、3人のパティシエが細心の注意を払って、観衆の前の台に作品をのせようとしたそのときでした。

「コツ……ガシャーン!!!!!!」
会場に悲鳴が響きわたりました。

台にのせるとき、わずかに振動の向きが変わったのでしょう。イタリアチームの芸術は、まるでピサの斜塔のように観客の前で地面に崩れ、粉々にくだけ散ったのです。

終了時間間際だったためやり直しもきかず、ボーゼンと立ち尽くすイタリアチームに、会場からは称賛の拍手が起こりました。

私はこの一部始終を見ていて、不思議と美しさを感じたのです。大会で勝つことを優先すれば、黄金比に基づきある程度の強度をもった作品を作る方が無難です。でもイタリアチームは、その場にいた人達が予想もしなかった高さと繊細さを持った作品を完成させることにチャレンジした。

黄金比は多くの人が美しいと感じる比率ですが、人が強く感動するのは作品が期待を越えてきたときなのかもしれません。予想もしなかった構図やアイディアは、見ている人をいつもとは違う世界へ連れていってくれます。

会場からの拍手は、そんなイタリアチームの芸術へのこだわりに送られたものでした。

黄金比の外にあるもの

私がワークショップや講座で使用しているフォトカードPOINTS OF YOU®のコンセプトのひとつに、「パターンを壊す」というものがあります。パターンは別の言葉で言うと、普段から慣れ親しんでいるもの=コンフォートゾーンとも言ったりしますね。

黄金比の名刺のイメージが頭にあると、同じ比率ではない名刺に出会った時ハッとします。私が一番驚いたのは日清食品さんの名刺。なんと日清カップヌードルの形(笑)。黄金比どころか、名刺は四角と信じ込んでいた私のパターンを見事に壊してくれました。個人的には1:2.5ぐらいの、とっても長細い名刺もけっこう好き。「あ~その手があったか~!」と思わせてくれます。

これは間違いない、というパターンを持っておくことは、決して悪いことではありません。一方で時々「いつもの〇〇」を変えてみると、感性はリフレッシュされます。

食べるもの、見るもの、聞くもの。少し違う感性にふれてみる。美術館や海外にでかけなくても、近所のスーパーやコンビニからでも始められます。

少しだけ、いつもとは違う場所で立ち止まってみてください。あなたの世界がちょこっとだけ広がる体験をすることができますよ。

「感性」とは見えないものを見るセンスである 感性を磨くことは、自分らしさに繋がる