ストレングスファインダーは「ラベリング」である

ストレングスコーチとして活動していると、個人セッション以外にも、企業へのストレングスファインダーの導入や一般向けの講座など、様々な場所でこのツールを通して対話する場面に出くわします。その時に「とても効果的な使い方だなあ」と感じる時と、「う~ん、残念な使い方になっているなあ」と感じる時があります。

道具ってなんでもそうだと思うのですが、その特徴や使用の際に起こりうること(ポジティブな側面もリスクも)を把握していないと、本来の素晴らしさを享受できないと思っています。ストレングスファインダーは私にとっては「よく切れる刃物」。使い方を心得ていれば自分の成長にも、チームの成長にもパワフルな効果が期待できる反面、扱いを間違えると、自分や周りの人を傷つけてしまうこともあり得ます。

この記事ではストレングスファインダーというツールを最大限に活用するうえで知っておきたい、「ラベリング」とそのメリット、デメリットについて書いています。

何のラベルを貼っている?

ストレングスファインダーは「34の資質」で表されるものですが、そもそもその34個のラベルは何かというと「思考・感情・行動の無意識のパターン」です。言い換えると、人の「思考と感情と行動のクセ」ですね。

元々、「ハイパフォーマー(高い成果をあげられる人)」を研究して、それらの人に共通する傾向性があるのか?というところから始まったこのツール。実際には5000もの才能が見つかり、それらを近しい傾向性ごとにグループに分けて、最終的にこれ以上分けられないところまで分類したのが「34の資質」です。

単純計算しても150近い才能のグループをぐるっとまとめて、それぞれに「最上志向」や「責任感」などのラベルをはっているわけです。

ラベリングのメリット①:自己探求の鍵になる

ラベリングをするメリットの一つ目は、「自分を理解するきっかけ」になりやすいこと。例えば特定の人との人間関係がうまくいかない時、多くの場合、お互いの「当たり前」がすれ違っています。自分では普通過ぎて見えにくいこの「当たり前」の価値感や欲求を、ストレングスファインダーが見えやすくしてくれるのです。

また、わたしたちは「なぜ上手くいかなかったのか」について考えることはあっても、「なぜ上手くいったのか」について考える機会はあまり多くないかもしれません。ストレングスファインダーは特に、自分が無意識でやっている(自分では大したことだと思っていない)パフォーマンスについて、どのようにそれを成し遂げたのか言語化することで、同じような成果の再現性を高めることにも使えます。

もちろん自己理解はストレングスファインダー無しでもできるのですが、ツールを使って「当たりをつける」ことで、より早く答えに辿りつけるのかなと個人的には思っています。Top5なら少なくとも5つの、Top10なら10の異なる視点から自分を見つめることで、より立体的に自分を捉えることが可能です。

「自分のマネージャーとしての強みって何だろう?」
「自分のコーチとしての強みって何だろう?」
みたいな問いが頭にある人は、ストレングスファインダーを使ったセッションや講座を受けてみると、自己基盤を強くして「自分なりのやり方」を磨いてくことにも繋がると思います。

ラベリングのメリット②:客観視しやすい

ラベリングのメリットの二つ目は、傾向性を「自分から切り離せる」こと。

思考・感情・行動のクセは「パターン」とか「プログラム」とか呼ばれたりします。長年持っているクセほど、自分と同一化してしまって、自分では気づけなかったり、そこから中々抜け出せないものです。ストレングスファインダーは、これらのクセにラベルをつけることで、一旦自分の外側に置いて、客観的に見たり対処したりしやすくします。

例えばわたしは上位Top5に「内省」という資質を持っています。考える才能ですが、資質の二面性からいくと、本質的な深い気づきを得やすい一方で、何でも「考えすぎてしまう」傾向もあります。ストレングスファインダーを知る以前は、よくエンドレスに思考のループに入っていたのですが、今は「あ、内省が強く出てるな」と客観視することで、思考を中断したりできるようになりました。

また自分だけでなく周りの人についても、より理解がしやすくなります。私たちは、誰かのある一つの側面を見て、苦手だなと感じたり、敬遠したりするものです。でも、それはその人の全てではなく、ある資質の側面が出ているに過ぎないと捉えることが出来ると、より多様性を受け入れられるようになります。チームビルディングにおいてストレングスファインダーが大きな効果を生むのは、こんな一面もあるかもしれませんね。

ラベリングのメリット③:成長の尺度になる

個人的にラベリングの面白い側面の一つだと感じているのが、「自分の成長がわかりやすくなる」という点。

人の内面の成長というのは、テストの点数や営業成績などと違って数値化することが難しく、そのため自分がどれだけ変わったのか中々分かりにくいものです。ストレングスファインダーの各資質には、「才能が未熟/成熟した状態」という定義があって、自分の成長段階を振り返るのにも役立つと思っています。

元々「育成すること」を基準にデザインされているツールなので、決して未熟な状態が悪い、ということではなく、あくまでも自分の現在地を把握するための地図のようなものと捉えるといいかもしれません。「なんとなく使えるようになってきた」と感じる資質もあれば、「いつまでも野生動物のよう……!」なんて思ってしまう資質もありますが、その育成のプロセスそのものを楽しめるのが一番かと。

「これまでの人生でどのようにその才能が形成されてきたのか?」と過去と今の自分を繋げたり、「さらに一歩成熟した状態にするために何をシフトする必要があるか?」と未来と今の自分を繋げたり、自分の成長の軌跡やこの先のロードマップまでも描けるのが面白い点です。

ラベリングのデメリット:決めつけ/言い訳になってしまう

ストレングスファインダーの資質に二面性があるように、物事には必ず二つの側面があるもの。ラベリングをすることで起きやすい、「残念だなー」と感じてしまう使い方の中で、よく見るのが以下の二つです。

◆決めつけになってしまう
ストレングスファインダーの各資質を説明する時に、よく特徴的なエピソードをお話しすることがあります。その際、そのユニークさがあまりにもインパクトがあると、エピソード=資質の絶対的な特徴として記憶してしまうことがあるようです。そうすると、次に同じ資質を上位に持った方に出会ったときに「あなたは○○の資質があるから~ですよね」と決めつけてかかってしまうことが。極端な話、人間を34種類に分けてしまう感覚に近いと思っています。

こうなると本当にもったいなくて、その人にしかないユニークな才能を探求するための鍵で、可能性の扉を閉じてしまっているんじゃないかと。ストレングスファインダーにおける資質は、あくまでも「仮説」を立てるためのもので、実際のところ、真実は相手と話してみないと分かりません。近年、提供元のギャラップでもコーチングによるアプローチをとても重視していて、個人の成長でも組織の成長においても「対話」をスキップしないことが、このツールを最大限に活かすひとつのポイントだと思います。

◆言い訳になってしまう
資質が何かを出来ない/やらない理由になってしまうパターン。人は「分かった」と思った瞬間に探さなくなる傾向があります。目の前の課題に対して早々に「資質のラベル」を貼ると、それ以上は探求できなくなってしまいます。例えば「コミュニケーションの資質が下位なので人前で話せない」「適応性が上位なので目標は決められない」などなど。
もちろんプライベートでは、人前で話さなくても目標を決めずに生きていくのも全然OKだと私は思っています。とはいえ仕事の場面など、自分の通常のパターンが通用せず、チャレンジしなければいけない状況もあるのではないでしょうか。

忘れてはいけないのは、ハンドルを握っているのは資質ではなく「あなた自身」であるということです。ある資質が上位にある/無いからやらない、ではなく、「ではどうすればそれが可能になるのか?」について考えてみることが大切です。他の上位資質をうまく組み合わせて発展させられるかもしれませんし、誰かの助けを借りて達成できるのかもしれません。

以上の二つは、ストレングスファインダー初心者の方よりもむしろ、ある程度理解が深まっている方や「ストレングスファインダー大好き!」という方によく見られるように思います。ストレングスファインダーは、傾向性にラベルがあるのであって、人に対してラベルをはるわけではありません。セッションや講座を受けていて「最近同じパターンにハマっている気がする」と感じる方は、ちょっと資質を脇においてみるのも一つの選択肢かと思います。ツールはその効果を発揮してこそ使う意味があるもの。家に良い包丁があるから使わねば!なんてこと無いですものね。

因みにコーチングを受ける期間が長くなると、徐々に「資質名」では話さなくなるという現象がよく起きます。コーチとクライアントの間で共通言語としての資質の理解はあるし、自己探求の鍵にもなっているけれど、資質名無しでもっと深いところまでいくイメージです。面白いですよね。

ラベリングによって得られるもの、起こりうるリスク、両方をしっかり理解したうえで、ストレングスファインダーを最大限に自分自身や周りの成長に活かしていきたいですね。効果的な強みの旅を。

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ストレングスファインダーを活用するための基礎用語 ストレングスファインダー®の強みを活かす3つのステップ